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父と娘01
―恵side-
「恋人に振られて、全てを失った男を目の前にしているはずのに、その堂々たる立ちっぷりはなんなのかしら?」
赤いワンピースドレスに、赤いストールを巻き、腕を組んで立っている姿は梓にそっくりだ。
出会った頃の梓を見ているかのよう。
私の会社の屋上に、優衣と神崎、山科、城之内が立っている。
優衣は赤いヒールで仁王立ちしており、その両脇を守るかのように神崎と山科。優衣の背後には、城之内が立っている。
対して、私は一人。
ヘリを屋上で待っていたところを、優衣に捕まった。
あのころは梓を美しい女だと思っていた。私の世界にある唯一の美しい花のような存在だと思い込んでいた。
「私の友人が、君のことを『破壊者』だと言っていた」
「それが? なに? 誉め言葉かしら?」
「……美しい破壊者だと思ってな」
私はフッと口元を緩めて笑う。
『美しい』というより、『愛しい破壊者』というべきか。
私は女の子が欲しかった。
梓との間に、女の子が生まれたらカワイイ娘になるって。
過去のことだが。
「逃げるの? その破壊者から」
自信に満ちた優衣の赤い唇が動いた。
「逃がしてくれるのか?」
「まさか。殺しにきたのに。逃がすわけないでしょ」
「蛍を殺し、ライを殺し……私を殺し、優衣は何を望む?」
「何も。ただ要らないから。私には不必要よ。家族なんて。要らない。嘘くさい家族愛なんてうざいの。殺す前に夢を見せてあげたの。一応、私のお父さんだから。蛍も言ってた。『親父が望んでいるから、家族のフリをしてやるだけ、だ』って」
優衣がクスっと笑うなり、私の頬に何かがかすめていった。
優衣の赤い髪飾りがパンっと割れて、結い上げている髪が崩れた。
ライか。
優衣の表情が曇った。
神崎と山科が中腰になって、警戒態勢に入る。
どこから狙われたのか、特定したいようだ。
「ったく、隠れていろと命令したのに」
相変わらず、私の命令を無視して。
「僕が命令に従う人間だと? 恵の図体が大きくて助かりました。いい隠れ場所でした。動かない的は狙いやすい」
「楠 莱耶? ……死んだはずじゃ」
「生きてますよ。この通り」
優衣の問いに、ライが肩をすくませて作り笑顔を浮かべる。が、すぐに笑みが消えて、優衣を睨み付け、手に持っていたサイレンサー付きの銃を投げ捨てると、脇腹に隠し持っている銃を取り出して、撃ちはなった。
弾は、優衣の太ももに命中する。優衣が小さい悲鳴をあげて、よろめいた。
優衣の取り巻き三人の男たちも銃を構えると、銃声が続けて二発響いた。
優衣の両隣りにいた山科と神崎が倒れこんだ。山科の額に一発。神崎は腹に一発。
「僕は恵や蛍のように甘くないですよ。一発で仕留めてやりたい気持ちをぐっとこらえて、太ももで我慢した僕の優しさをむしろ褒めてほしいくらいだ」
ライがフンっと鼻をならすと、銃を構えたまま、歩き出す。
優衣との距離を縮めている。
「神崎! 神崎大河、生きてんでしょ。どうにかしなさいよ」
優衣が太ももの傷を庇いながら、腰を落とし、山科の手に握られている銃に手を伸ばす。
ライはすかさずに、優衣の手に発砲をする。
「あっ」と優衣は手に握りしめたはずの拳銃を、取り落してしまう。
続けて、ライはまた発砲し、優衣の右腕に弾をねじ込んだ。
「莱耶」と私は声をかけると、ライが腰につけている小型銃を左手に握って銃口を私に向けた。
優衣と私の間に立ったライは両手を広げて、右手の銃は優衣に向け。左手の銃は私に向けている。
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