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恋人たち01

―恵side- 「道元坂!? 大丈夫かよ」と智紀が、駆け寄ってきた。 「大丈夫だ」と私は返事をすると、社長室の一人掛け用の革のソファに腰をかけた。 「怪我してるじゃねえかよ」  智紀が私に触れようとすると、側近の男たちに制止される。 「まず治療が先ですから」と抑揚のない声で側近が言う。 「かまわない。大丈夫だ」  私の言葉に、側近が制止した智紀を解放する。  智紀が私の前に膝をつくと、両頬を覆った。 「終わったのかよ」 「ああ。すべて終わった。優衣と神崎は拘束した」 「良かったあ」と智紀が大きく息を吐き出して、頬から手を離した。  私の肘に智紀が額をつけると、「ほんとに、良かった」と小さく呟いた。 「莱耶も生きてる」 「え?」  智紀がパッと頭をあげた。 「莱耶と決めたこととはいえ、黙っていて悪かった。ライは莱耶だ」 「そんなことより、道元坂こそ大丈夫なのか?」 「は?」 「娘に拳銃を向けられたんだろ?」 「平気だ。数年前は、蛍にも狙われていたしな」  私は苦笑をする。  私は生きてきた世界では、当たり前のルールだ。  子は親を殺し、一人前になる。優衣も蛍も、それを実践したまで。 「智紀、これからどうする?」 「え? これからって……」 「全てを知ったんだ。それでも私についてきてくれるのか?」  ライトの顔が脳裏によみがえる。組織で優秀な男だった。  警察官でなければ、梓の組織でかなりの地位を得ただろう。 「当たり前だろ!『俺たちはこれからもずっと二人で人生を歩んでいくんだ』って、言っただろ」 「智紀、ありがとう」  私は智紀の肩に手を回すとぎゅうっと抱きしめた。 ―智紀side-  俺は道元坂の側近たちから部屋を追い出された。  道元坂の治療のため、同じ部屋にいるのを許されなかったのだ。  社長室の分厚い扉が閉まって、俺は廊下の窓に映る自分の顔をじっと見つめた。 「道元坂様なら大丈夫です。傷は浅い。急所を外して撃ってるでしょうから」 「誰?」と俺は声のしたほうを向いて、問いかけた。  黒色のスーツをきた男がにっこりと笑って、近づいてきた。  俺の横で足を止めると、窓に背を向けて寄り掛かった。 「私は城之内 翔と言います。蛍様の側近兼内応者とでもいうんでしょうかね。最近は、蛍様の命令で優衣様の警護をしておりました。小森ファミリーで見聞きした情報はすべて、道元坂様の元に流してました」 「道元坂と一緒にいたの?」 「ええ。だから大丈夫です」 「なんでそう言えるんだよ。撃たれてんのに」 「撃ったのが、ライさんだからです」 「はあ? 兄貴が?」  兄貴がなんで?  道元坂を守るのが兄貴の仕事のはずじゃ……? 「ライさんと蛍様が恋人同士って知ってますか?」 「ん?……あ、ああ、まあ。なんとなく」  兄貴と蛍が。  そうかなあ?っていう程度だけど。  ライさん……いや、兄貴が隠したがってそうだったから、知らないフリをしてただけ。 「蛍様は意識不明の重体。その原因を作ったのは、優衣様。優衣様の父は、道元坂様。で、発砲したのでしょうね」 「よく、意味がわからないんだけど?」  なんて親子関係だからって、撃つんだ? 「ライさん自身もよくわかってないんじゃないかな? 今までのいろんな感情が入り混じって、道元坂様にぶつけたのでしょう。それを受け止められるだけの器があるお方ですから」 「道元坂って、居るだけですごい存在だもんな」 「ええ。そこに立っておられるだけで、空気が変わります」  城之内がフッと表情を崩して微笑んだ。  道元坂はスゴイ奴だよ。  居るだけで、安心するんだ。  ただ傍に居てくれるだけで……。  俺はそんなスゴイ奴が好きだ。ずっとそばに居たい。

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