22 / 38

恋人たち02

―ライside- 「弟くんに会わなくてもいいのかよ」  後部座席に乗り込んだ僕に、助手席に座っている森谷綾斗が聞いてきた。 「今は……いい」とやっとの思いで僕は口にする。  今、智紀に会ったら、僕はライに戻れなくなりそうだから。  残酷、非道、無慈悲。それが記憶をなくした道元坂のもとにいるライ。 ……と決めたはずだったけれど。  すっかり崩れてしまった。  標的は必ず仕留める。情けはかけない。それが僕。  恵のそばにいたのは、ただお給料が良かっただけ。智紀が不自由なく暮らせるだけのお金を恵が用意してくれて、智紀優先で仕事を組めたから。  両親を殺したのが恵だとわかっていても何も言わずに、知らないふりをしたのだって。今の好条件の仕事を手放したくなかっただけ。  それだけのはずだったのに。  僕は後部座席の背もたれに背中を預けると、深い溜息をついた。  いつから?  僕はかわった?  いつの間に両親を殺した道元坂を許していたんだ?  許せない相手に、僕はすっかり気を許していた。  甘えていた。  智紀を預けていた。 「恵はたった一人で、どうするつもりだったんだろう」  あの場に一人で。  僕が行かなかったら、死んでいたかもしれないのに。 「結果は一人じゃなかった。貴方が動いた。必ず来ると信じていたはずです。だからこうして、龍原の車が動いている」 「まさか……これも恵の指示だったと?」  僕の隣に座っている紀伊 靖明がにっこりとほほ笑んでうなずいた。 「『大人しく守られるような男じゃない。再度、騒ぐのであれば、あいつの行きたいところへ連れて行け』と言われてました」 「なんだ。僕が来るのをわかってて……」 「あんたの性格をわかってんだろ。信頼もしてる。だからあんた以外の護衛はつけなかったんじゃないのか」  助手席の綾斗がまっすぐ前を見たまま、口を挟んだ。  僕は信頼されてる、恵に。  両親のことで、僕が恨んでいるとは思わなかったのか?  僕が、恨んで裏切るとは思わなかったのだろうか。 「馬鹿だ、恵は」  僕はうっすらと滲む涙を隠すように瞼を閉じた。  僕はもっと馬鹿だった。  僕を信じてくれていた恵を、感情のままに撃つなんて。

ともだちにシェアしよう!