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恋人たち03

―蛍side-  見たことない天井だなあ。  うっすらと意識を取り戻し、瞼を持ち上げて目に入ったのは、見知らぬ天井だった。 「蛍、蛍……生きてるっ。良かった! 僕の蛍が生きてるよ」  聞き覚えのある声がして、ぐっと腹のあたりが重くなる。  くるしっ。  てか……痛いんだけど。 「いた……い」と俺は掠れた声をやっとの思いで出した。 「ああ、ごめん。嬉しくて、つい……」と、俺の視界に金髪の男が入ってきた。 「カイル? なんで?」 「僕の蛍の一大事! 駆けつけないわけない。ずっとそばにいるよ。ああ、どうしてこんな目に……僕と一緒にいたら、蛍をケガさせたりしないのに」 「やめなさい、カイル。この部屋に入れてもらえるだけで、ありがたいことでしょ」 「かあさん?」  俺は、母親によく似た女を見て、目を細めた。  あ? ってことは、俺は生きてないのか?  死んだ……のか? 「似てるけど違う。私は梓の双子の弟、椿。ごめんなさい。事情を聞いて、居てもたってもいられなくてここまで来てしまったの。まさか、優衣がここまでやるなんて思わなくて。私の責任だわ」 「え? 別にあんたのせいじゃ……」  母さんには姉弟がいたのか。  知らなかった。  家族の話をしない人だったから、居ないもんだと思ってた。 「そっか。そういうことか」と俺は、カイルが俺の家からすぐに撤退した理由が今になってわかった。  誰も何も言ってくんないんだもんなあ。  こっちはわからないことだらけで、必死に納得している風を装って生活して。  カイルの想い人は俺じゃなくて。  母さんの弟の椿って人。  親父はそれを知って、カイルとの取引で椿って人を使ったんだ。  どういう理由かはわからねえが、カイルと椿は一緒に居なくて。  母さんとカイルとの約束……契約か。でカイルが俺のところへ。  椿の代わりを俺がさせられたのか。  椿と優衣が一緒に生活していたんだな、きっと。  そんで椿がカイルのとこに行くから、親父が優衣を預かった。というか、娘を引き取ったのか。  何も知らない優衣が、反抗して今回の大騒動になったわけ、だな。  そりゃ、反抗したくなるだろ。  こんな状況。大人たちの勝手な恋愛事情で、国を跨いで、ふらふらさせられちゃ。

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