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恋人たち04

「どいつもこいつも、不器用すぎるだろ。優衣がひねくれるのもわかる」  俺はフッと笑う。 「こんなにされても、妹を庇うとは。さすが、僕の蛍だよ!」 「撃ち殺しますよ?」  音もなく姿を現した莱耶が、カイルの背後をとると後頭部に銃口をつきつけた。 「ああ、嫉妬深い恋人のお帰りのようだ。僕はここまで。また来るよ、僕の蛍」  カイルが俺の額にキスを落とすと、椿と一緒に部屋を出ていった。  きちんと扉が閉まるのを確認するまで莱耶が、冷たい視線をドアへと送り続けていた。 「『僕の蛍』と何回連呼したら気がすむんだか。とっくに『僕の』じゃないのに」  莱耶がむすっとして、椅子に座った。 「ここは、龍原の屋敷内にある病院です」 「なんで。カイルが?」 「蛍を託してもいい人間が、あの馬鹿外国人しかいなかったからです。いくら恵が手配してくれた龍原組とはいえ、隙をついて蛍を狙おうと思えば、狙える。カイルは、馬鹿がつくほど蛍を愛している。蛍の敵となる人間が近づけば、すぐに殺すでしょ。躊躇わずに。今の状況で、最強のボディーガードです」 「マフィアのドンを、ボディガードにするって……」  莱耶らしくない。 「喜んでやるでしょ、あの男なら。実際、喜んで来てたし。『僕の』って腹立たしい」  莱耶がそっと俺の手を握りしめて、「生きてて、良かった」と小さな声で呟いた。 「優衣、どうなった? 莱耶がここに来るってことは解決したんでしょ?」 「知りません、そんなこと」 「は?」 「恵の管理下になったんじゃないですか? 僕は最後まであの場所にはいませんでしたから。そんなこと、どうでもいい」  莱耶の手が俺の頬に触れて、「大切なのは、こっちです」と言い、キスをしてきてくれた。  ちゅ、ちゅくと音が鳴る。 「ちょ、やばいって」 「わかってます。瀕死のけがを負った人間に欲情する僕も最低だと。でも、もう嫌なんです。僕は蛍が欲しいって思ったんです。あんな後悔はしたくない」  莱耶が俺のベッドにあがってきた。俺の上にのると、さらに深いキスを落とした。 「あの馬鹿みたいに『僕の蛍』と堂々と言い放つのは無理ですが。『僕の蛍』と言って、蛍を縛ってしまいたい」 「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……」 「『けど』? って何か不満があるんですか?」 「いや……だから。智紀が……」 「智紀は僕の弟です」  俺は莱耶の背中をトントンと叩いて、指をさした。 「智紀がきてるんだよ。城之内と一緒に」 「え?」と莱耶が振り返ると、扉のほうへと身体をねじった。  智紀と城之内が居心地の悪そうな顔をして、苦笑いを浮かべていた。 「まずい……ときに来ちまった、かな?」と智紀がこめかみをかいた。  莱耶の頬が赤くなると、こほんっと喉を鳴らして、ベッドから降りていく。 「蛍様、ご無事で。小森優衣から『殺した』と聞いたときはもう、ダメかと……」  城之内が俺の横に小走りで近づくと、正座をして頭をさげた。 「あ……、まあ。実際、俺もあんときもうダメかと思ったし。生きてて、良かった。良かった」  あんまあのときの記憶、残ってないけどな。 「小森優衣を止められなくて申し訳ありませんでした。蛍様の期待を裏切ってしまい……」  城之内が、床に額がつくほど頭をさげた。 「優衣の状況から見て、仕方なかったんじゃねえの? あれで捻くれずに、親父の思うようなかわいい娘面は正直、きついだろ。そこに神崎が優衣の心の隙間を抉ってきたんだ」 「蛍、甘いよ。見張らせておいて失敗した男を許すなんて」  莱耶が城之内の肩に足を乗せた。ぐいぐいと足で踏みつけて、腰から銃を出した。 「指の一本や二本、失ってもいいくらいじゃないの?」 「ライさん、ダメ……」と思わず、智紀が前かがみになる。 「覚悟はできてます」と城之内が左手を差し出した。 「莱耶、いいんだ。智紀がびびってるだろ。城之内も、手をしまえ。神崎と優衣の処理は、親父に任せる」 「僕は許せない」 「莱耶」  俺の声に、莱耶がびくっと肩を震わせた。 「わかりました」と莱耶が拳銃をしまい、「その言い方、恵にそっくりでむかつく」とこぼしていた。 「ライさ……いや、兄貴、俺……」と智紀がぼそっと言葉を出す。 「僕たちの話は廊下でしましょ。蛍、少し廊下にいますので」 「あ、ああ」 『兄貴』か。  とうとう智紀にもバレたのか。 ……って、俺。  智紀がいるのに、堂々と『莱耶』って呼んでたじゃないか。  やべ、やっちまったかも。 「あ、俺……、『莱耶』って」と俺は口に手をあてた。 「蛍のせいじゃありません。優衣がすべてを智紀に話したんです」  莱耶が微笑んだ。  智紀もコクンとうなずくと、静かに廊下に出ていき、こそこそと何かを話している声が聞こえた。
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