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きょうだい02
―蛍side-
智紀と莱耶が出ていった扉が静かに閉まると、俺は「神崎は?」と城之内に質問した。
「死にました」
「そっか。あいつも、梓の血を引いていた一人だから、トップに憧れてたんだろ。惜しいことをしたよな。バカだな。うまく立ち回れば、組織なんて簡単に手に入ったものを」
「いえ、それどうか、と」
「否定しなくていいって。俺の技量はわかってるから」
「いえ。その技量を踏まえて、神崎派よりも蛍様派のほうが多いのが現実ですから」
「は?」と俺は声をあげた。
いやいやいや、それは見誤ってるっつうの。
俺に支持者がいるわけないだろ。
「蛍様、けっこう人気があるんですよ。道元坂様の片腕である莱耶さんに、マフィアのカイル様も今は蛍様に夢中だって。尊敬されてます」
「あ……いや、それは」
変な気分だな。
俺の偉大さ……的な部分が全然ねえじゃんかよ。
ただすげえ大物二人に、好かれてるっていう事実なだけじゃん。
「ま、いいや。親父に電話」
「はい、かしこまりました」
城之内がスマホを取り出して、スピーカーにして電話をかけた。
『なんだ』と低い声が病室に響く。
「俺」
『蛍か。大丈夫なのか』
「ああ。動けないけどな」
『見舞いに行きたいが、まだ行けそうにない』
「来なくていいよ。いろいろ処理があんだろ。とりあえず、智紀と莱耶はここにいるから。神崎が死んだのも聞いた。親父に一つ提案がある……」
もう決めたんだ。
組織の今後。
もっと早くにこうしていれば良かった。
これで俺は、似合わない組織のトップに君臨する必要なんてなくなる。
もともとそういうのが上手いヤツに預けていればよかったんだ。
『なんだ』
「親父に組織を預ける。俺は……普通の大学生になるよ」
「無理でしょ」と背後から声がした。
振り返ると、眼鏡をかけたいかにも利発そうな和服姿の男子が立っていた。
「組織の統合、それはとても良い提案だと思います。が、『小森 蛍』という組織のトップである人物を見誤ってますよ。ね、道元坂さん?」
『靖明くんか。その通りだな』と親父の返答がきた。
靖明と呼ばれた男子がにっこりとほほ笑むと、俺にタブレットの画像を見せてきた。
どっかの古めかしい屋敷の門に、大勢のむさくるしい男たちの集団が押しかけている映像だった。
「これは龍原の防犯カメラの映像。今現在、のね。君の組織の人間たちが、小森 蛍を心配して来てる。どこから情報が漏れたんだか? ねえ、道元坂さん? ついさっきまで静かだったのに。どっと来たんですけど」
『細かいことは気にするな』
電話口の親父が、くくっと笑うのが聞こえてきた。
親父のしわざ?
ここに居ると、誰かに話したのか?
靖明ってやつも、事情がわかっているのかフッと口元を緩めて微笑んでるだけだった。
「あいつら……」と俺は画像に映る男たちを見て、言葉を漏らした。
『統合の件はひとまず保留だな。組織の連中と相談してから、また来い』
「ああ、わかった」
親父との電話を切った。
「城之内、外に居る連中に迷惑になるから帰れって伝えてきて」
「わかりました」
城之内が、一礼して廊下に出ていった。
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