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甘い時間02
―蛍side-
ん……なんか重い。
俺はうっすらと瞼を持ち上げると、椅子に座って、ベッドに伏せて寝ている莱耶が見えた。
手も温かい。
莱耶に握られているんだ。
俺はギュッと握られている手を握りしめた。
「蛍、起こしちゃった?」
莱耶がゆっくりと身体を起こした。
「それ、俺の言葉」
「僕はまだ来たばかりで、眠ってませんから」
「いいの? 智紀のそばにいなくて」
「久ぶりに恵と過ごす夜だから。僕はいらないでしょ」
「ああ、そういうことか」
「僕はここに居たい。蛍のそばに居たいんだ」
莱耶が、チュッと握っている俺の手の甲にキスを落とした。
「今回はもう駄目かって思った。また僕は同じ過ちを繰り返すかと……。蛍が好きなのに、蛍を苦しめて、追い詰めて。僕は」
「生きてるよ、俺。大丈夫」
「蛍、蛍……」
莱耶の嗚咽が聞こえた。
泣いてるんだ。
自分を責めてる。
大丈夫だって言ったのに。
「大丈夫だから」と俺はさらに強く莱耶の手を握りしめた。
「そういえば……。優衣と何があったんです?」
「え?」
莱耶がスッと目が細くなるのがわかった。
「瀕死を怪我を負うような状況にどうしてなったんです? 回避するくらいできたはずでは」
「あ……や、まあ。夜だったし?」
「正直に真実を話して。嘘は聞きたくないですから」
「あ……や、それは。ちょっと」
「『ちょっと』?」
「真実は知らないほうが」
話して怒られんの、俺じゃん。
「どういうことですか?」
「あ、いや。覚えてない、かな。撃たれた前後の記憶がぁ」
「蛍、真実を」と莱耶が、繋いでる手の爪をたてた。
「ふぅん、それで愛人になるか、殺されるかを選べって……」
莱耶が、優衣につけられた首のキスマークをじっと睨みながら口を開いた。
「あの状況では、これは不可抗力っていうか」
莱耶の指がキスマークを押す。
「なんで愛人を選ばなかったんです? あの状況でベストの選択は、『愛人』でしょ。そしたらこんな……」
「どっちを選んでも、撃たれてたと思うよ」
「撃たれなかった。蛍が生きてると知って、あの女は……思い出すだけで反吐がでる」
莱耶が、「ちっ」と舌打ちをした。
「いたっ。莱耶、押しすぎ。痛いから」
「どうして愛人を選ばなかったんです? 命を落としてまで、僕を選ぶなんてしないで」
「前に僕から離れようとするな……って言われた記憶があるんだけど?」
選びたくなかったんだ。
莱耶以外の人とそういう関係になるっていうのを。俺が選びたくなかった。
優衣はただ、自分を女扱いしない俺が気に入らなかっただけ。恋愛感情はない。全ての男は自分に夢中になるって、へんに自信をもっているところがあったから。
自分の物になりそうにない俺に、力でどうにかしたかっただけ。好きとか、愛とかそういった感情は優衣には無いと思う。
「命がかかっているなら、死を選んで欲しくない。僕は、蛍に生きていて欲しい。どんな形であっても。生きていれば、どうにでもなる。生きててくれなきゃ、嫌だ」
莱耶が唇を奪ってきた。舌を絡めて、濃厚で甘いキスをした。
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