29 / 38

甘い時間02

―蛍side-  ん……なんか重い。  俺はうっすらと瞼を持ち上げると、椅子に座って、ベッドに伏せて寝ている莱耶が見えた。  手も温かい。  莱耶に握られているんだ。  俺はギュッと握られている手を握りしめた。 「蛍、起こしちゃった?」  莱耶がゆっくりと身体を起こした。 「それ、俺の言葉」 「僕はまだ来たばかりで、眠ってませんから」 「いいの? 智紀のそばにいなくて」 「久ぶりに恵と過ごす夜だから。僕はいらないでしょ」 「ああ、そういうことか」 「僕はここに居たい。蛍のそばに居たいんだ」  莱耶が、チュッと握っている俺の手の甲にキスを落とした。 「今回はもう駄目かって思った。また僕は同じ過ちを繰り返すかと……。蛍が好きなのに、蛍を苦しめて、追い詰めて。僕は」 「生きてるよ、俺。大丈夫」 「蛍、蛍……」  莱耶の嗚咽が聞こえた。  泣いてるんだ。  自分を責めてる。  大丈夫だって言ったのに。 「大丈夫だから」と俺はさらに強く莱耶の手を握りしめた。 「そういえば……。優衣と何があったんです?」 「え?」  莱耶がスッと目が細くなるのがわかった。 「瀕死を怪我を負うような状況にどうしてなったんです? 回避するくらいできたはずでは」 「あ……や、まあ。夜だったし?」 「正直に真実を話して。嘘は聞きたくないですから」 「あ……や、それは。ちょっと」 「『ちょっと』?」 「真実は知らないほうが」  話して怒られんの、俺じゃん。   「どういうことですか?」 「あ、いや。覚えてない、かな。撃たれた前後の記憶がぁ」 「蛍、真実を」と莱耶が、繋いでる手の爪をたてた。 「ふぅん、それで愛人になるか、殺されるかを選べって……」  莱耶が、優衣につけられた首のキスマークをじっと睨みながら口を開いた。 「あの状況では、これは不可抗力っていうか」  莱耶の指がキスマークを押す。 「なんで愛人を選ばなかったんです? あの状況でベストの選択は、『愛人』でしょ。そしたらこんな……」 「どっちを選んでも、撃たれてたと思うよ」 「撃たれなかった。蛍が生きてると知って、あの女は……思い出すだけで反吐がでる」  莱耶が、「ちっ」と舌打ちをした。 「いたっ。莱耶、押しすぎ。痛いから」 「どうして愛人を選ばなかったんです? 命を落としてまで、僕を選ぶなんてしないで」 「前に僕から離れようとするな……って言われた記憶があるんだけど?」  選びたくなかったんだ。  莱耶以外の人とそういう関係になるっていうのを。俺が選びたくなかった。  優衣はただ、自分を女扱いしない俺が気に入らなかっただけ。恋愛感情はない。全ての男は自分に夢中になるって、へんに自信をもっているところがあったから。  自分の物になりそうにない俺に、力でどうにかしたかっただけ。好きとか、愛とかそういった感情は優衣には無いと思う。 「命がかかっているなら、死を選んで欲しくない。僕は、蛍に生きていて欲しい。どんな形であっても。生きていれば、どうにでもなる。生きててくれなきゃ、嫌だ」  莱耶が唇を奪ってきた。舌を絡めて、濃厚で甘いキスをした。

ともだちにシェアしよう!