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それから02
親父も許してる、と思う。俺に優衣を託すってことは、怒ってはないんだろう。親父が怒ってたら、優衣はもう殺されてただろうから。
俺も、親父も。身内には甘い人間なんだろう。
「俺が部屋にいるときに、優衣に点滴を。たぶん、俺がいれば点滴は抜かないと思うから。莱耶が言うように、俺に恋心があるなら……だけど」
俺は苦笑した。
莱耶も翔も、優衣は俺を好きだと言う。俺はそうは思わない。
優衣は家族が嫌いだと思うから。親父と俺を恨んでる。自分だけが外に出されたと、孤独を感じて憎しみだけが心を支配してるんだ。
俺は優衣の部屋のドアをノックして、ドアを開けた。
カーテンがしっかりと閉まっており、室内は太陽の明かりがカーテンからすこしだけ差し込み、ほんのり明るい程度だった。
天蓋のあるベッドに優衣が腰かけてるのが目に入った。
俺が優衣を見るのは、拳銃で撃たれて以来だ。随分と、体が小さくなっている。
俺が入っていっても、微動だにせずに、座っていた。
「優衣、点滴を入れる。点滴が終わるまで、俺はここにるから」
俺の声に、優衣の肩がびくっと動いた。
翔と医師が俺の後ろから入ってきて、点滴の用意を始めた。
「この部屋は母さんが使ってきた部屋だ。死んでからそのままにしてた。母さんを崇拝していた奴らにとったらこの部屋は聖地みたいなもんだから。これからは優衣が自由に使うといい」
医師が優衣の腕に、点滴の針を入れた。
「なんで、殺さないの?」
「わからない。妹だから、って言うほど俺には家族愛はない。俺にも同じような経験はある。親父を殺そうとしていた時期もあった。今、こうして俺がここに立っていられるのは、親父が俺を生かしておいてくれたから。親父や莱耶にチャンスをもらえたから、俺はこうしていられる」
「私にもチャンスをやろうって?」
「俺は何も知らなかった。母さんからの情報、小森の組織ルール、それが俺の全てだった。そうじゃない世界を、チャンスをもらって知ったんだ。優衣にも、母さんに縛られない世界を見てほしいって思う」
親父と再会するまで、俺はずっと親父が『悪』だと教わってきた。母を裏切り、新しい組織を立ち上げて、俺らを狙ってるって。
親父と会って、なんだかんだと言いながら守ってくれる姿を見て、「違うのかも?」って思った。
母さんより、親父のほうが俺を子どもとして見てくれてるって思えた。
親父のところに行くって決めて、侑っていう大事な人を俺は失った。莱耶の好きだった人を、俺は俺の安易な行動で、失わせてしまったんだ。
俺は母さんを殺して。侑を自殺に追い込ませて。最悪で最低な人間だ。それでもチャンスをくれた。莱耶は俺を愛してくれた。
生きてれば、どうにでもなるって言ってくれた。
「何も……知らない、くせに。私がどんな生活してきたか、なんて」
「知りたくもないですけどね」
俺の背中から、冷たい声が聞こえた。ワイシャツにジーパン姿の莱耶が、優衣の部屋に入ってきた。
あれ? もう起きたの? いつもだったら、1時間くらいは意識が無いのに。
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