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莱耶の想い人02

 そう仕向けるようにしたのは、侑だった……と恵から後になって聞いたけど。選んだのは僕だ。 「わかる。僕は侑をそこまで好きじゃなかった。侑が好きだったら、僕は恵の仕事を手伝ったりしてない。侑のもとで、ずっとホストをやってたはず。僕は侑を捨てたんだ」 「ホスト?」  蛍が眉間に皺を寄せた。  僕が話してない僕の過去。蛍がまだ幼いころの話だ。智紀との生活のために、僕は恵を選んだんだ。好条件だったから、侑を簡単に捨てられた。  侑への気持ちは捨てられるほどの感情でしかなかったんだ。  だから、蛍がいまだに引きずっている意味はないんだよ。 「場所を変えよう? すべてを話すよ。僕の過去を。今回の僕と恵のゴタゴタの原因でもあるから」 「え?」 「僕が恵から離れたでしょ? 優衣がきたときに。一度は姿を消そうとした。蛍は聞きたそうにしていたのに、あえて聞いてこなかった。僕もそれに甘えて話すのを拒んでた。それでも蛍は僕を支えようと、僕の望みを叶えてくれてた。僕のほうが年上なのに、蛍にばかり僕は甘えてる」  僕は手を出した。智紀も僕が生きていることを知った。恵との過去を知っても、智紀は恵と一緒にいる生活を選んだ。  僕が、僕たちの過去を隠している理由がもうないんだ。  知ってもらいたい。蛍に。僕のすべてを知って、受け入れてほしいと願う。  蛍の部屋で、僕は僕の過去を話した。 警察官だった父親が、潜入捜査で「ライト」として梓の組織にいた。侑や、恵と一緒に仕事をしていて、警察官だとバレて事故死に見せかけて、殺された。  両親が出かけているときに交通事故で……という設定で。  殺したのは侑と恵の二人。二人は僕たち兄弟の成長をずっと陰で見てきていた。侑は侑で、独自に。恵も、恵で知り合いの探偵を雇ってた。  両親を亡くした僕は、智紀との生活を続けるために、ホストで働き始めた。自分の学歴なんてどうでもよかった。智紀さえ、笑顔で生活していけるなら。  僕は何でもできた。智紀にだけは、苦しい思いをさせたくなかった。  まさか、両親を殺した男のもとで仕事をしているなんて全く知らなかったけど。ホストをしているときに、恵と知り合った。  組織は違えども、侑と恵は繋がりがあったようだ。  このころ、僕は侑に恋をしていた。でも恋人同士にはならなかった。たぶん、侑には過去がある。それがネックで僕に、手を出せなかった。僕の両親を殺してたから。  恵と知り合い、恵から好条件の仕事を提案された。それを飲むのに、侑を捨てろ、と。  僕はあっさりと侑を捨てた。智紀と侑、天秤にかけるまでもない。すぐに答えがでた。  僕にとって侑はそんな程度の男だった。  僕は恵のもとで仕事をするようになった。表向きの仕事を。  定時にあがれて、智紀優先にできる生活。給料もかなりいい。恵が裏で何をやっているかも、僕は知ってた。  

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