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第3話

「チッ。何で俺が、こんな店を継がなきゃなんねーんだよ」 「悪いな。俺が経営センス無さすぎて」 グチグチ文句を言いながら朱鷺が帳簿を整理していると、汰樹が申し訳なさそうに顔を覗かせた。 「別に。兄さんのせいではないです。別に、ここを継ぐのは家族じゃないといけない訳でもないのに、クソ親父が無理矢理俺に継がせるから」 「それほど、親父は朱鷺を信頼してるって証拠だ。ほら、店の片付けするからお前は奥にでも行ってろ」 そう言って汰樹が朱鷺を無理矢理立たせようとするが、継いだからにはちゃんとすると決めたのだ。いつまでも子供みたいにいじけていては、やれるものもやれない。 俺も手伝いますと言いながら、汰樹が持とうとしていた着物を朱鷺は手に取った。 汰樹と朱鷺の家は、代々呉服屋を営んでいる。それこそ江戸時代からだ。 昔と同じように着物を売り、着物をより引き立たせるための小物も売っている。そして現代では、着付け教室もしているのだ。 経営センスはほとんどない汰樹だが、着物を選ぶセンスは家族や従業員の中で1番ある。そして、着付けもまた上手い。そっち方面は、すべて汰樹の担当だ。 そして、山寺の経営全般を握っているのが朱鷺。経営を大学で学んだのが仇になったらしい。卒業と同時に、父親に無理矢理山寺の店長の座に就任させられた。 最初の方は、本気で父親に反抗していた。仮病を使って休んだり、店に来ても何もせずにボーッとしていたり。 しかし、汰樹が必死に朱鷺の分まで働こうとしている姿に心動かされ。今では、反抗心をむき出しにしながらも必死に働いている。 「っと。これで片付けも終わったし、店を閉めようぜ」 「はい。あ、ちょっと待って兄さん。誰かが入ってくる」 片付けも終わり、いざ店を閉めようとした時だ。こちらの方に向かってくる人影が朱鷺には見えた。案の定その人影は、暖簾を潜って店の中に入ってきた。 「すまないが、まだ時間は大丈夫だろうか」 入ってきた人影。それは、スラリと身長が高く、キレイな金髪とブルーの瞳で。何もかもが美しく、そしてかっこいい外国人。 「………どう言ったご用件で」 初めてこんな間近に外国人を見た朱鷺は、用件を聞く自分の声が震えていることに気づいた。 「土産で煙管を貰ってね。この煙管に似合う着物を探しに来たんだ」 そう言ってフワリと笑った外国人に、朱鷺は心奪われていた。

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