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第7話
「どうだ。俺が、お前のために選んだ着物。かっこいいだろ!」
「う、うん」
「ほら。さっさと着替えるぞ。ルークがきっと、首を長くして待ってる」
自分1人でも着物は着れるのに、汰樹に着物を着せてもらった。朱鷺が山寺の店長になった時以来で、少し気恥ずかしかったが嬉しかった。
汰樹は、ルークと朱鷺の関係に口を出すことは1回もなかった。だからこそ、少しだけ不安に思った時もあった。
でも、認めてくれていた。朱鷺が、着物のカタログを見ながらかっこいいと呟いていた一点物の着物を準備してくれたのだ。
「――――――ありがとう、兄さん」
「おう。幸せになれよ、朱鷺」
「うん」
「でも、まだ山寺はお前を手放すつもりはないぞ」
「もちろん。俺は、まだまだ店長として働くつもりです」
そんなことを話しながら、汰樹はてきぱきと着付けを終えた。
「ほら、行ってこい朱鷺」
汰樹に背中を押され、朱鷺は離れから出ていく。イーライが扉の前で待っていたようで。朱鷺が準備を終えたのを確認すると、何も言わずに歩き出した。
イーライが何も喋らないので、必然的に朱鷺も喋らない。2人何も話さないが、嫌な空気ではなかった。
「こちらに、社長がお待ちです」
ピタリと歩くのをやめたイーライが、中の明かりが漏れている襖の前に立ち、朱鷺に頭を下げた。この中にルークがいると思うと、朱鷺の鼓動が一段と早くなる。
朱鷺が深呼吸をして、襖を開けようとした時だ。イーライが、最後の言葉と言う感じで声をかけてきた。
「どうか、社長を幸せにしてあげてください」
「分かってます。そっちも、兄さんを泣かせたりしたら許しませんから」
「分かってますよ。まぁ、別の意味で鳴かせますけど」
ニタリとした笑みを見せるイーライを朱鷺は睨むと、1度呼吸を整えてから襖の方に視線を戻した。
そして、イーライに見守られるなか襖を開ける。
「待ってたよ、トキ」
襖の向こうには、初めて出会ったあの日朱鷺が選んだ着物に身を包んだルークがいた。
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