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chapter.1-2
「…何さっきからやらしい目で見てんだ」
「は、へえ?や、やらし…」
遺憾な形容詞に目を丸くする萱島へ、俄かに相手が距離を詰めてきた。
覚えた体が身構える。
その緊張を解くかの様に、柔らかく唇が押し当てられる。
萱島の葛藤などすべて理解し、構造を紐解いた上で。
また掌で簡単に操ろうと、戸和は蕩けそうに優しい口づけを繰り返した。
「ふ…んん、」
案の定絆され始める。
結局上に陣取られた時点で、勝てる見込みなど皆無だったのだ。
知り尽くした舌使いに熱の上がる頬。
火照り、震え始めた指先が持ち上がり、高そうなスーツを掴んだ。
「…っあ、もう」
息継ぎの合間にどうにか距離を取る。
既に縺れそうな舌で、真っ赤な萱島は実に迫力のない怒りをぶつけた。
「っは、なし、きいてよ…!」
「聞いた上でやってるんだろ」
「ええ…尚悪い…」
「いいから大人しくしてろ」
勘違いしないで頂きたい。こちらだってしたいものはしたい。
君が四六時中傍に居る現状、ふと温度でも感じようものなら耐えられなくなる。
その上で物申しているというのに、こんな力任せに抑え込まれて不満が募らいでか。
「いやだ服脱がすな!」
「何だ、最近反抗的だなお前…また縛るか?」
少なくともパートナーに投げる台詞じゃないだろう。
亭主関白にいよいよ暴れかけた矢先、沈黙していたオフィスへ電子音が鳴り響いた。
「…和泉、電話!」
「固定だろ、どうせ緊急じゃない」
「そう…かもしんないけど出てよ!触んないでいいから!」
シャツをたくし上げる手を躍起になって叩く。
珍しく長い抵抗の背後、呼出音は10コール目でピタリと止んでいた。
そうして自動的に留守電へと切り替わる。
其処からはつい習性で動きを止め、両者ともじっと録音の内容へ耳を欹てていた。
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