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chapter.1-5
「…本郷さん!牧!」
正体を知り、満開の笑顔で両者を呼ぶ。
「あ、お帰りー」
萱島を認めた牧も口元を緩め、変わらずゆるっゆるの挨拶をくれた。
副社長の方は何やかんやアメリカでも世話になっていたが、本部から動けない彼はそうも行かない。
思わず駆け寄ろうと脚を踏み出す。
矢先背後から謎の力に引っ張られ、萱島は呻き声と共につんのめっていた。
「お疲れ様です本郷さん、牧は久し振りだな」
「おん、久し振り。ところで何で萱島さん迷子紐ついてんの」
「直ぐ何処かに行くから」
何処かに行った記憶も無いし、もう直ぐ御年30になる。
リュックから伸びた迷子紐を掴まれた萱島は、屈辱感から無言で地面を睨み付けていた。
「びっくりするくらい不服そうだけど」
「視界から消えたら困るだろ」
「大丈夫?病院行く?」
笑顔で戸和の暴論を流し、牧は手元のコーヒーを呷る。
感動の再会もそこそこに、現主任は早々とFAXの掲題を切り出した。
「まあいいや、取り敢えず社長の件なんだけど」
「――…そうだ!連絡取れないって何で!いつから?」
「2…週間くらい前かなあ」
漸く口を開いた本郷へ、暴れていた萱島がぴたりと止まる。
さて2週間。
厄介ごとに巻き込まれたるなら当に暗転し、死体ならば原型を留めていないだろう。
脳内が次々といらぬ妄想を呼び、ぐるぐる渦を巻き始める。
ひとり真っ青な萱島を放り、平静な本郷は話を繋いでいた。
「それでさっきから牧と喋ってたんだけどな、大体の方向性はもう決まってきたんだわ」
「方向性…?」
「取り敢えず亡き者として、先ずは労働時間改正から入ろうかと」
「なにその臭いものに蓋的な」
まるで薄情な両者を目の当たりにし、迷子紐に絡まったまま萱島は噛み付いた。
「そういうことじゃないでしょ!心配じゃないの!?」
「えっ……」
「しんとするなやそこで」
「いやごめん、びっくりして」
一寸後退した牧が咳払いで区切り、不意に隣の本郷を見やる。
こちらは上っ面こそ平静にしているが、実は何となく諸々の要因から疲労が浮かんでいるのだ。
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