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chapter.1-8
「――初めまして、GM(ゼネラル・マネージャー)のカレン・デリンジャーよ。貴方が副社長のMr.本郷?」
付け爪でない清潔感あるネイル、キツ過ぎない香水と化粧。
この女、“分かっている”。
握手に応じた本郷は慣れたものだが、牧は嫌な予感を確信に変えた。
案の定、悲しい本部の童貞たちが釘付けになっていた。
「やけにいい男ね、ハリウッドスターかと思ったわ」
「…日本語が随分お上手なようで」
「勿論、此処はアジア市場展開の重要な足掛かりですもの」
カレンは数人の部下らと一帯を見回し、満足そうに促されたソファーへ掛けた。
得体は知れないが目的を明示し、敵意も無い。
一先ず話が出来そうな相手で良かった。
本郷も些か落ち着いて腰を下ろしたが、ふと途切れぬ視線を解して面を上げた。
「何か?」
「いえ?…長居するつもり無かったんだけど、貴方とは個人的に話したくなっちゃって。どう?この後喫茶店で今後の…」
「粗茶ですが!!!」
ガチャン。
些か失礼な音を立て、ローデスクへアイスティーが登場した。
少々気圧されたカレンが目を向ければ、下手へ唸り出しそうな萱島が控えている。
「…あら可愛い子」
「お話し中恐れ入りますが、私も同席して構いませんか?」
そして今度は名刺を手に戸和が横入りし、何故か本郷を奥の席へと押し退けた。
何だ何だと訝しげな当人を他所に、カレンは了承がてら微笑む。
「本当に男の子ばっかりなのね。未だ何も聞いてないそうだから、一から説明した方が良いかしら?」
「ええ、お手数ですがお願いします」
「何?お前らも座んの?」
「本郷さんもっとあっち行って」
支店の2人に追いやられる形で遠ざかりつつ、兎にも角にも本郷は目前の女性へ説明を促した。
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