8 / 248

chapter.1-8

「――初めまして、GM(ゼネラル・マネージャー)のカレン・デリンジャーよ。貴方が副社長のMr.本郷?」 付け爪でない清潔感あるネイル、キツ過ぎない香水と化粧。 この女、“分かっている”。 握手に応じた本郷は慣れたものだが、牧は嫌な予感を確信に変えた。 案の定、悲しい本部の童貞たちが釘付けになっていた。 「やけにいい男ね、ハリウッドスターかと思ったわ」 「…日本語が随分お上手なようで」 「勿論、此処はアジア市場展開の重要な足掛かりですもの」 カレンは数人の部下らと一帯を見回し、満足そうに促されたソファーへ掛けた。 得体は知れないが目的を明示し、敵意も無い。 一先ず話が出来そうな相手で良かった。 本郷も些か落ち着いて腰を下ろしたが、ふと途切れぬ視線を解して面を上げた。 「何か?」 「いえ?…長居するつもり無かったんだけど、貴方とは個人的に話したくなっちゃって。どう?この後喫茶店で今後の…」 「粗茶ですが!!!」 ガチャン。 些か失礼な音を立て、ローデスクへアイスティーが登場した。 少々気圧されたカレンが目を向ければ、下手へ唸り出しそうな萱島が控えている。 「…あら可愛い子」 「お話し中恐れ入りますが、私も同席して構いませんか?」 そして今度は名刺を手に戸和が横入りし、何故か本郷を奥の席へと押し退けた。 何だ何だと訝しげな当人を他所に、カレンは了承がてら微笑む。 「本当に男の子ばっかりなのね。未だ何も聞いてないそうだから、一から説明した方が良いかしら?」 「ええ、お手数ですがお願いします」 「何?お前らも座んの?」 「本郷さんもっとあっち行って」 支店の2人に追いやられる形で遠ざかりつつ、兎にも角にも本郷は目前の女性へ説明を促した。

ともだちにシェアしよう!