9 / 248
chapter.1-9
話の要旨はこうだった。
トワイライト・ポータルはアジア展開に際し、マーケティングに明るい現地企業の買収を試みていた。
そして仲介業者の斡旋を通し、数か月前に神崎と接触。
待遇はそのまま社員が多様な部署で活躍できる環境を提案し、序に(というか本郷は此方がメインだと踏んだが)神崎へ株をいくらか譲渡し、経営にも噛んでもらう話だったそうだ。
「ウチの社名なんてこっちじゃ聞いたことないでしょ?事務機器・OA関連商社なんだけど、外資ってだけで敬遠されがちなのよね」
「…経緯は分かった。ただなんせ取締役の自分にも相談が無い、契約として有効とは」
「その件なら問題無いわよ」
あっけらかんと流し、カレンは控えていた男へ鞄を要求する。
次いで彼女が机上へ突き付けたのは、株式譲渡契約書やら決済書やらの写しだった。
「取締役会はもう彼の申請で廃止されてるわ」
「あ、あの野郎…」
「署名も彼の筆跡でしょ?全部確認して。手続きは完璧な筈だから」
横から小難しい顔で覗き込んでいた萱島が袖を引き、絶句している本郷を呼び戻す。
「…どういうこと?」
「まあ、だからな…ウチは非公開会社…つまり譲渡制限株式なんだよ。その場合譲渡には取締役会の承認が必要なんだが、それを野郎が廃止したとすると…」
「株主総会の決定…要は100%ウチの株を持った、神崎社長に判断が委ねられると」
「そーいうこと」
反対側から飛んできた戸和の補足へ頷く。
なんと、あの社畜主は知らぬ間に独裁政権を築いていたということか。
確か実際は本郷との共同経営だった筈が、事実ならブチ切れて良い内容だ。
「…しかし何だ黄昏への入り口って」
「Ms.デリンジャー有り難う、確かに書類は確認しました。ただそうだな…」
「カレンで良いわ」
「カレン、実は数週間前から社長に連絡が取れていない」
ふっとアーモンド型の瞳が拡大した。
相対する本郷は、それが演技か本音か推し量ろうとする。
ともだちにシェアしよう!