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chapter.1-10
「まあ…実は私たちも最近連絡がつかなかったのよ」
「申し訳ないが、連絡が取れるまで待って貰えないか。貴女もご存知の通り、我々だけで勝手に話を進める訳にもいかない」
「…仕方ないわね」
あっさり折れた。
その反応が予想を外れ、立ち上がる彼女へ遅れを取る。
「なら一刻も早く探し出して頂戴。ただし勿論社内は自由に見学させてもらうし、社員との面談も進めさせて貰うわ」
告げるや彼女はその場の視線をさらりと交わし、もう用はないと言いたげに踵を返した。
「じゃあねみんな、また明日会いましょ」
ついでに凝視するギャラリーへウインクし、アウェイを物ともせず歩き出す。
お供を連れて嵐の様にエントランスへ消える一行を見送り、3人は暫しその場で何も言えず立ち尽くしていた。
「…帰った」
「えっ…どう…結局どういう…」
「何か知らんが契約上、俺達はもう黄昏への入り口に支配されてるらしい」
「その字面だと唯の中二病ですね」
隠れていた牧も現れ、ざわつく本部の中心で臨時ミーティングが勃発する。
連中が残した動揺も冷めぬまま。
異様な空気のメインルームは、デッドライン間近の月末よろしく張り詰めていた。
「凄かったねあの女の人…もう見るからに美人局ですみたいな」
「いやー…多分あの人はバリキャリだよ。結局本郷さんの連絡先も聞いてないし」
「俺はてっきり、連中が遥を拘束だか始末だかしたんだと思ってたが」
本郷の発言へ場が止まる。
確かに。このタイミングで前触れなく現れ、買収の話など怪し過ぎる。
「…ただ仮にそうならば、此方の捜索を待つ理由が分からないと」
「そう、言動を見る限り向こうも急いでるみたいだしな」
「じゃあ社長を捜してるのは本当ってこと?」
「うむ、ただ怪しい事この上ない」
「そもそも何だよ黄昏への入り口って」
連中がほざいていたOA商社というのも本当だろうか。
改めて残された契約書の写しを眺めつつ、責任者らはこの先を思案した。
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