17 / 248

chapter.1-17

牧がB班へインカムを入れるのを横目に、カチカチと海外サイトやキャッシュデータを行き来する。 「それにしても遅いねえ本郷さん」 「ああ、御坂先生が捕まったなら良いが」 神崎が不在の現状、社の舵取りに関しては彼しか知り得ない。 そうでなくても萱島は思う。 平静な振りこそしていようが、この穴は本部へ目に見えない影響を及ぼしている。 社畜量産機だろうが人格破綻者だろうが、あの経営者は確かに全員の精神的支柱であったのだ。 「…心配な癖に」 「ん?」 独りごちた萱島を覗き込み、戸和が目を眇める。 「何だ、疲れたのか」 最近はすぐ隣の距離感が当たり前になっていた。 そっと伸びた指が、心なしか色の悪い頬を擽る。 「飛行機で寝てなかったろお前」 「…へーき」 「一段落したら仮眠室で…」 「はいはい、職場でイチャイチャしないの」 呆れて割り入る牧にはっとする。 否そんなつもりは毛頭無かったが、萱島は頬を赤くして椅子へと縮こまった。 「それにしても普通にヤバくない?この会社…本社の位置イラクだぞ」 「…ほんとだ」 「今あそこ凄いことなってるじゃん、ISISだかISILだか…」 「え、そうなの」 余りの多忙にニュースを見ていなかった。 情報サービス業として許されざる事だが、自宅に帰る隙間すら無かったのだから仕方ない。 「今年に入って、ファルージャがイスラム過激派組織に占拠されたんだ。市民は暴政に晒されるわ、イラク治安部隊は統率が取れないわで混乱してる」 戸和のくれた情報にへえと感心するも。 冷静に考えれば自分と同様の仕事量をこなしながら、一体君は何処に新聞を読む隙間があったというのだろう。 「隣のシリアもずっと紛争状態だしな…というかあれは最早大国の代理戦争か」 「まあ、つまり例にない緊張状態だって話だ」

ともだちにシェアしよう!