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chapter.1-21
『牧(M):どうだった?』
一方情報共有システムの社内専用チャットでは、午前に数人が出入りした頃を見計らいトークルームが始動していた。
『佐瀬(C):履歴書の確認、普段の業務について』
『間宮(SM):あと既往歴、海外で何してたか』
『佐瀬(C):海外の話は俺もすごい食い付かれた』
まるで試験中のカンニングタイムだ。
各々業務に勤しむ体を見せながら、隙間に仲間内で情報を送り込む。
『牧(M):海外?外資だからか』
『佐瀬(C):それと何故か手術歴聞かれた』
二窓で展開していたチャットを目に、牧の指がキーボード上で静止する。
『牧(M):は?なんで?』
『間宮(SM):それ俺も脈絡なさ過ぎて引っ掛かったわ。無いって理解したら終わったけど』
手術歴なぞ、普通はまあ健康診断で問診がある程度だろう。
業務に関わる件とも思えず、牧は脳内へ違和感としてメモを残す。
『間宮(SM):何か幾つか固定の質問があるみたいなんだよな』
牧は頬杖を突いて明後日を睨む。
果たして、それが査定に無関係なのだとしたら。
まるでこの面接が何かを洗い出すというか、特定層を捜す目的かの様な。
「…ふう」
ミーティングルームでの面談を終え、萱島は扉の外ひとり息を吐いた。
別に興味が無いとは言え、目前にあのサイズはたじろぐレベルの迫力がある。
昨夜は散々部下を詰ってしまったが、自分だって先まで戸和を前に悶々としていたのだから。
(もうやめよう…煩悩だなんだのと一方的に非難するのは)
唯でさえ男所帯なのだ。
こんな社の窮地に、内部で揉めている場合では無かった。
「――萱島支部長」
ぴたり。聞きなれない呼び方に挙動が止まる。
一寸遅れで振り向けば、矢張り見慣れないメガネが此方へ距離を詰めてくる。
「あ、えーっと…」
「ジル・クリステンソンです、先ほどは面接お疲れ様でした」
いつもカレンの脇へ控えている補佐の男だった。
言葉尻は丁寧ながら、何処か不遜な態度へ萱島はつい身構えた。
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