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chapter.1-22

「…どうかしましたか?」 「そう警戒しないで下さい、ひとつ聞き漏らしがあっただけですよ」 欧州の男性とはどうして此処まで恰幅が良いのだろう。 じりじり迫る巨体へ、つい連動して萱島の脚が後退する。 「あなた様、先ほどアメリカで手術をなさったと仰ってましたが…」 「あ、はい」 盲腸の。 萱島は先に咄嗟に吐いた嘘を思い出す。 まるで心理検査の虚偽尺度(Lie scale)の如く、“手術歴”などと突飛な質問をされた。 これは妙だと踏んだ萱島は、つい適当を話してしまったのだ。 「見せて頂けますか?」 「へ?」 「手術の痕ですよ、実は先ほどの面接は…当社への信用調査も兼ねてましてね」 本当に虚偽尺度みたいなそれじゃないか。 ミスを自覚した萱島から、さっと血の気が引いてゆく。 「…見せられませんか?」 薄いレンズの奥で目が光る。 正直分からない、会社に何処まで個人情報の開示義務があるのか。 しかし盲腸の手術なんて、尾を引くことは無いだろう。 にも関わらず、どうして此処まで。 (ち…近い) 気付けば壁際へ追いやられ、退路もない萱島が汗を流す。 じっと伺うように見上げれば、遥か上空の相手が顎で促していた。 「…き、綺麗に直して貰ったので」 「ほう?」 「知り合いのなんかこう、すごい天才外科医に…」 悪事を働いた訳でもないのに、しどろもどろになるのが悪い癖だ。 到頭目を逸らしてしまった萱島へ、ジルの武骨な手が伸びていた。 「どれどれ」 「…ひっ!」 いきなり捲り上げられたシャツへ目を白黒させる。 反応出来たところで防げもしないが、無遠慮に肌を見られて赤面する。 「おやこれは…」 なんせ未だ消えてはいないのだ。 出立の前に散々嬲られ、端から端まで確認する様につけられた痕が。
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