23 / 248
chapter.1-23
「随分情熱的な恋人ですねえ」
詰る男の言葉と目が痛い。
否、どうしてこんなにプライベートを暴かれる必要があろうか。
羞恥に泣き出しそうな萱島を前に、ジルはあちらへこちらへ執拗な視線を這わせている。
「しかしありませんね、完全に消せるなんて事もないでしょうに」
ひたりと腹へ触れられ、今度こそ萱島の全身が総毛だつ。
「あ、あのう」
只々涙目で男の腕を退けようとした。
萱島の可哀想な様相へ、蛇の如き目が留まる。
「もう良いんじゃないでしょうか…」
「…もう?何も解決してませんよ、何か嘘を吐く理由があったんでしょう」
いっそこれは、真実を話すのが最良の逃げ道でないだろうか。
お次は無遠慮に顎を掴まれ、覗き込まれる恐怖へ身が竦む。
「そうですね、では別室で…」
「…?」
「全身調べましょうかね、本当は何処に傷があるのか」
明らかに欲を孕んだ色にも気付かず、ただ手も足も出ず固まった。
満足そうなジルが凍る肩を掴む。
そうして痩身を促そうとした矢先、
俄かに銃の撃発音が轟き、鼻の真横を鉛玉が突き抜けた。
「うっ!」
仰天した図体が飛び退く。
当該物は柱へ埋まり、破片と罅を巻き散らした。
「…殺す」
いつの間にやら蔓延する殺気を振り向けば、死刑宣告と共に青年が銃を向けている。
「き…君は副支店長の」
「5M以上離れろ、そして死んで詫びろ」
姿を認めた萱島が青ざめた。
危局、今度こそ彼のハイドラショック弾で死人が出てしまう。
真昼間から血みどろ展開は勘弁して欲しい。
萱島は間髪入れず狙う2発目を遮り、全速力で青年へと駆け寄った。
「…違う!和泉!て、天才外科医が!」
「はあ…?」
「成る程、GMの読み通りデキてたんですね貴方たち…しかし話も聞かず発砲してくるとはなんと野蛮な」
汗の浮いた指でメガネを押し上げる。
話を聞かずも何も、邪な目的で連れ去ろうとしたのは事実である。
ともだちにシェアしよう!