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chapter.2-2

「で、どう?手応えありそう?」 『さー…何処まで噛んでるかは知らんけど、取り敢えずメル友にはなったぜ』 「メル…は?」 恐らく今日一の大声を出したであろう。 牧の渾身のリアクションへ、周囲が怪訝な面で振り返る。 『いやなんかさスティーブ…あ、あいつスティーブっていうんだけどな、結構大変らしいんだよ。奴の実家がチャリ屋でさ、この前のステファニーだかシンディだか言うハリケーンの所為で…』 「別にいいよそいつの身の上話は…何?お前、気持ち悪い…何で初対面の人間から実家の被害状況まで聞き出してんだ、気持ち悪いな」 『気持ち悪いとか言うなよ、妹想いの良い奴なんだぞ』 「いやスティーブじゃなくてお前…」 明日にはマブダチになっていそうだが、正直誰が其処まで求めたというのか。 牧が理不尽にドン引きしている間にも、弊社の営業担当は「おっ、スティーブからメールだ」などと勇んでスピーカーフォンへ切り替え始めた。          Chapter.2       Roar of a Killer whale        - シャチの咆哮 - 「…とまあ、そんな千葉くんが人間やめた話は置いといて」 「あんだとぉ、誰のお陰で初支店が機能してると思ってんだ」 そりゃあ君が次から次へと仕事を取って来るお陰ですけれども。 噛み付く営業を諫め、牧は持ち込んだラップトップと対峙する渉を見やる。 昨日より練り始めた計画も、そろそろ実行の機を伺っていた。 この少年の口の悪さと腕の良さは知っているが、果たしてそう上手く事は運ぶのか。 「おい、調整は問題ないぜ。早くあのモブキノコ呼んで来いよ」 「スティーブならもう呼んである、そろそろ着…」 カンカンカン。 軽く3回、簡素なノックへ揃って面を上げた。 次いで開いたドアからは、特徴的なマッシュヘアーが姿を見せる。 スティーブ・グラッサンドニア。この青年こそ牧が白羽の矢を立て、協力を仰いだTP社員であった。

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