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chapter.2-5

「――改まってなあに?」 スティーブに誘導されるまま人気の無い廊下を過ぎり、2人の背景は錠の外れた空き部屋へと移る。 「5分は貴方にあげるけど、手短にお願いね」 「はい、実は…先ほどメールを」 「メール?」 重苦しく口を開いた部下へ首を傾げた。 新着の通知など目にした覚えがなく、カレンは再び携帯の画面を確認していた。 「…来てないけど、何かここ電波が悪いのよね。地下に会社なんて作るからよ」 「あ…そうですか、でしたら」 徐にスティーブが抱えていた鞄を探り、ポータブル式のルーターを取り出す。 「こちらを使って下さい、電波は入るようですから」 「あら、ありがとう」 素直に青年の差し出すものを受け取った。 カレンは掠めた指の熱さへ驚くも、相手の心情を察してか口角を持ち上げた。 「…メールを見たら言いたい件が分かるのかしら?」 「ええ、その…いえ」 先から視線を合わせようともしない。 外見はスーツで隙無く固めたにも関わらず、中身はてんで初心な男が声を絞る。 「カレン…私は、その」 黙って続きを待っていた、彼女の姿へスティーブは俄かに一歩踏み込んで詰め寄った。 「私は…ずっと…!」 そして衝動的に手首を掴み取る。 虚を突かれた彼女の手から、白いスマートフォンが音を立てて滑り落ちていた。 「あっ…も、申し訳ありません!」 「…大丈夫よ、拾ってくれるかしら」 落ち着き払った上司の声に弾かれ、スティーブは慌ててその場に膝を突く。 幸い拾い上げたスマートフォンに傷は無く、安堵と憔悴を混じらせながら体を伸ばした。 「大変失礼しました…話は私の口から直接申し上げます」 謝罪を零しつつ、青年は手にした携帯を遠ざける様に机上へ置く。 「カレン…正直私には、貴女が考えてらっしゃる事など逆立ちしても分かりませんが」 幾分トーンダウンした声が空気を入れ替えた。 黙って続きを待つ上司は、じっと視線から本意を汲み取ろうとしていた。

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