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chapter.2-6
「貴女を気に掛ける…慕う人間からの言葉として、一つだけ言わせて下さい。この先貴女が何処へ向かおうが、何が起ころうがご自分を大切にして頂きますよう」
想定を外れる。この部下は、どうやら見目より程度の深い子供だった様だ。
「どうか決してご無理はなさらないよう、お願い申し上げます」
そうして最後まで部下を貫き、折り目正しく頭を下げる。
彼の精一杯の言動を見送るや、カレンは前髪を掻き揚げて珍しい自嘲を浮かべていた。
「…ふふ…何それ」
少し表皮の防御が剥がれた気がした。
言い難い相好を前に、スティーブは言動を封じられる。
「直情的にぶつけてくるかと思ったら、随分と可愛いこと言うのね。意表突かれたわ」
一寸煌めく瞳へ、母性の様なものすら受ける。
動けぬ部下を置き去り、カレンは机上の携帯を手に踵を返した。
「有り難うね」
その礼は、後になって帳消しにされるだろうか。
追いもせず背中を見守ったスティーブは、寂しげな目を床へ落とした。
「…申し訳御座いません、サー」
唯一つ、貴女を慕う心は本物だ。
それを保証したところで、其方には何の足しにもならないだろうが。
「――…侵入した、データ取得に入るぜざまあみろ」
クアッドコアPCの画面へ、次々とダウンロードウィンドウが開く。
一先ずは思惑通りに事が運んだらしく、背後の牧は胸を撫で下ろしていた。
「あと何分かかる?」
「この容量なら2分ってとこかな、心配すんなアイコンの所在までは見えてないからよ」
計画とは対象…即ちカレン・デリンジャーの携帯ハックだ。
序に実際の作業内容を追えば、手順はこうだった。
先ずスティーブが対象を電波の悪い場所へ呼び出し、送ってもないメールの確認をする。
すると対象は電波障害で受信できていないものと考え、スティーブが差し出したルーターへ接続する。
ルーターは勿論渉が用意したものだ。
対象が接続した瞬間、渉はWi-Fiを介して相手の携帯へ接触。とあるダウンロードサイトを表示させる。
そしてスティーブが対象の携帯を落とし、画面に触れたことでハッキングアプリ「Snake2.0」のインストールが始動。
対象から遠ざけている約30秒の間に完了し、現在渉はそのアプリを介してデータを盗み出しているという次第だった。
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