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chapter.2-8
「――…開けてくれるかしら?牧主任」
既に聞きなれた声が静寂を割る。
無言で腰を上げた牧は、言い訳も構築せぬ間にドアを押し開けた。
「…どうも?何か御用ですか」
「御用はそっちの方でしょ、私の携帯勝手に見たくせに」
微笑み、カレンが目前へ現物をぶら下げた。
もうバレているなら致し方ない事だ。牧は嘆息するや、業とらしく肩を竦めてやる。
「それはお互い様でしょ、貴女も盗み聞きしてたんだから」
「そうね…じゃあその件はイーブンで不問にしましょ」
何だこのあっさりした会話は。
眉を顰める此方を他所に、カレンは堂々と入り口から部屋へ侵入する。
そして物言いたげに彼女を睨む渉へ目を止め、昨日と違う色のルージュを歪ませた。
「…君が此処のハッカー?未だ子供じゃない」
「渉に構わないで下さい、話は俺が伺います」
背後から威圧を乗せて牧が遮る。
その注意を流し、カレンは困惑する少年の背後へと歩を進める。
「君は知ってるの?神崎社長が何処に行ったか…」
「…知らない」
「そう、信じられないけどね」
多分、女性と見て警戒が薄くなっていたのだろう。
反応の遅れた牧は、カレンが渉へ拳銃を向けるのを見送ってしまった。
「――…っ!わた…」
「動かないで2人とも、私だって子供の頭なんて吹き飛ばしたくないわ」
踏み出しかけた牧の脚が留まる。
この自称OA商社…此方が反抗したと分かるや、躊躇なく武器を出してきた。
「優しくしてあげたかったけど、いい加減にして頂戴。社長の所在は何日も分からない、増して副社長や調査責任者も帰らない…この状況で役員が一人も居ないなんて、私たちを馬鹿にしてるの?」
正直それは仰る通りだ。
ただ如何な理由があろうが、子供へ道具を向けて良い筈がない。
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