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chapter.2-11

「Hello――Jill Christenson…What are you doing here?」 成す術も無い補佐は、ギリギリと必死に首だけを動かす。 視界の隅では同様に拘束されたカレンが、苛立たしげに隊員へ噛み付いていた。 「遅くなりました、両名ともお怪我は御座いませんか?」 「ああ大丈夫…」 ウッドの問いに無事を返す。 続ける寸前、牧は更に張り詰めた空気へ口を閉ざしていた。 「Are you traveling?It's lovely this time of year(観光か?いい時期だからな)」 怒気もない掠れた低音。その一声で、瞬時に場の注意が吸い取られる。 「言っておくがこの国の夏は最悪だぞ、中東の砂漠気候よりずっとな」 ブーツが何度か地面を叩き、暗闇からすっと金髪の男が浮かぶ。 実働隊の長、寝屋川庵。 この場で一番会いたくない責任者の登場へ、ジルは露骨に顔を歪めていた。 「…実体験ですか?寝屋川大尉」 「ジル、貴方は黙ってなさい」 初めて余裕のない声を聞いた気がした。 カレンの遮りへ、補佐は気圧され口を噤む。 「私を放してくれる…?何よ、武器もない唯の女よ。いいでしょ」 「Rose, let her go」 寝屋川の了承で拘束が解かれ、カレンは少々痛めた首筋を回す。 そのまま彼女は銃口の中を歩み出すや、寝屋川の目前へ対峙していた。 「…有り難う寝屋川隊長、私たちの事はもうご存知かしら?」 「ああ、これからもっと知る事になる」 「ふふ…ベッドにでも誘うつもり?」 カレンの揶揄へ器用に口端だけを上げる。 無用になったM4を肩へ掛け直し、寝屋川は手近のパイプ椅子へ腰を下ろした。

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