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chapter.2-12
「何か勘違いしてるな、今一度自分の立場を理解して口を開けるか」
低く、優しく子供に諭す様な声色だった。
それでいて中身は脅迫じみている。
一歩間違えば射殺される空気へ、さしものカレンも次を答え倦 ねた。
「よくも俺の部下に銃を向けたな、俺はお前を二度と許さない。僅かでも此方の領域に銃を向けたなら、腹が裂けようが泣き喚こうが絶対にだ」
言葉の裏へ、静かな怒気すら孕んでいる。
何か過去のトラウマすらも透けて見え、相対する首筋を汗が流れ落ちていた。
「理解したなら其処に跪け」
足元から冷気が這い上がり凍り付く。
凝固する相手へ、寝屋川は膠も無く命じた。
「跪け 」
脊椎を抜かれたのかと思った。
カレンは次の瞬間、内部から支えを失くし崩れ落ちていた。
冷たい床に蹲り、呆然と肩で息をする。
軍人の殺気を正面から受け、全身を不快な汗が覆い尽くしていた。
「良い子だSugar、良い子には良い手札が回る…明日の生死は自分の胸に聞いてみな」
言うやウッドを呼びつけ、寝屋川は怠そうにパイプ椅子へ身を投げ出す。
「…私は、何も答えないわ」
「勝手にしろ」
ウッドへ手錠を掛けられながらも、カレンは憔悴した顔を懸命に擡げた。
「Aftah famak fagat 'iina kan ma sataquluh 'ajmal min alsamt…」
吐き捨てられたアラビア語へ片眉を上げる。
矢張りこの女も中東に長く暮らしていたのか。
この自称OA関連商社が、現地の武装勢力らとも懇意にしているなら話は簡単でない。
ISILの台頭により中東情勢が混乱する中、イラクの本社へ介入するなどリスクが高過ぎた。
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