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chapter.2-15
「居たのかサイファ」
「居たのか…?良くもそんなご機嫌な台詞が吐けましたね、7年もバカンスを楽しんで心は癒されましたか?」
「バカンスの意味を調べ直してきな」
警備員らが傍観する中、肩を怒らせたサイファが距離を詰める。
そのまま上司が手にしていたペンを奪うや、自分の仕事だとばかりに申請書類を埋め始めた。
「貴方が勝手に消えたお陰で海面は上昇し、ギリシャは粉飾決算でユーロ危機を起こし、挙句に私の飼っていたグッピーは全滅しました」
「何でも人の所為か」
「事実です。序にUNSC(国連安全保障理事会)の執拗な虐めに合い、ウチの予算は子供のお駄賃程度に減額です」
だから待機人数が減っていたのか。
2丁のH&K USPをホルスターへ収め、御坂は漸く泣き止んだ警備員に問い掛ける。
「IDカードも預けてなかった?」
「サー、IDでしたら私がお預かりしてますよ」
露骨に眉を顰める上司にも怯まず、いっそドヤ顔の彼女がカードキーを差し出す。
摘まみ上げて現物を確認するや、何を思ったか御坂はそれを向かいの警備へ突き返していた。
「悪いけど、これ破棄して代わりの申請しといて」
「…どういう事ですサー、まさか私が何か仕込んだとお思いですか」
「明日から窓口も一人増やすから、今日は残業せずにさっさと上がりな」
「私が盗聴器やGPSの類を仕込んだとお考えですか?…失礼ですがサーは私の事を何か勘違いしてらっしゃいませんか。私は何も貴方様のプライバシーを覗きたいとか、下着の色が気になるだとか、そう言った低俗な思考へ時間を浪費した訳では御座いません。宜しいですか、例えばサーが私を採用した時分、仰った件がありますが…」
懐かしい景色だ。
ゲスト用の簡易キーを受け取り、入り口を後にした御坂は吹き抜けのロビーを仰ぎ見る。
隣の部下が延々と雑音を垂れ流している以外は、この異端の城には数年前から変わらぬ心地良い緊張感が満ちていた。
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