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chapter.2-21

「指導員はレイダーに任せる、研修中の身だろうが早く一人前になれるよう…」 存外に長いマネージャーの話が続き、一帯には欠伸交じりの者も生まれる。 この一見何の変哲もないOA機器商社のオフィス…つまるところトワイライト・ポータルの本社へ、本郷は身分を隠し潜入を果たしていた。 「さあロウ、宜しく頼むぞ」 「……」 「ロウゥ!」 「あっ!俺か…」 何の関連性もない呼び名に反応が遅れる。 慌てて訝し気なマネージャーの隣に進み出るや、無難な挨拶へ口を開いた。 「此方こそお願いします、その…頑張ります」 「舐め腐った小僧だな、もう一度やってみろ」 「がん…ばります」 「その鼻につくイギリス英語を止めろ!!!」 「…すみません」 何故こんなに怒られねばならないのか。 遊びに来たつもりはないが、此方とて慣れない国で疲弊している。 結局黙らされた主役を置き去り、スピーディーな朝礼はお開きとなっていた。 (音節末の r…あと何だ、母音間・強勢後のtを弾音化…) 職員がぞろぞろと戻る中、必死にアメリカ英語の記憶を掘り返す。 コミュニケーションに苦慮する傍ら、本郷はふと隅の気配へ視線をやった。 (…女の子) 高校生くらいだろうか。 RICにも子供は出入りしていたが、流石にイラクで白人の少女は異質過ぎる。 「手伝おうか?」 力仕事を見兼ねた本郷が声を掛けた。 気付いた少女が手を止め、此方を振り返る。 長い髪の隙間から容貌が露わになる。その画を捉えた刹那、本郷は言葉も浮かばず凍り付いていた。 殆ど色素のない、透ける様なアイスグレーの瞳。 その稀有な色を持つのは知る限り2人だけだ。 偶然か必然か、暫し混乱の最中へ立ち尽くした。 「…な、何かしら?」 出会い頭に見詰められ、当然相手は鼻白んだ。 その反応へどうにか引き戻され、本郷はやっと会話を続けにかかる。 「失礼…君も此処の職員?」 「職員って訳じゃないけど、割と仕事も手伝ってるわ。みんなと仲良いし、家族みたいなもん?」 何処か得意げな口調が可愛らしい。 自慢げなさまを眺めながら、つい口元が綻んでいた。

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