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chapter.2-24

「ちょっと素手で触らないの!」 目玉焼きが出来るどころか、頭から融解されそうな灼熱の気候。 既に疲弊しながら車に近づいた本郷は、早速同行者の叱責を受けていた。 「グローブつけないと火傷するじゃない、此処の気温舐めてるでしょ?」 「全然舐めてない、マジで暑い…何これ?人間が住んでいい環境か?」 「湿度が無いから日陰は涼しいのよ、アンタの国と違ってね」 その口ぶりからして、パトリシアはイラクでの生活が長いのだろう。 彼女が先立って車のドアを開けると、車中は地獄の様な有様になっていた。 「エアコン付けといてあげるわ…でも今年は砂嵐が早く収まって良かったわね、去年は今頃の時期も空港が閉鎖されてたから」 「ああ、なんか死者まで出て大惨事だったらしいな」 「…何度も聞くけど、だから何でこの国に来たわけ?おまけにこんな不安定な情勢下でよく渡航でき…」 日陰で車内の気温低下を待っていた。 少女はふと会話の中途で思い至り、隣へ佇む男へ詰め寄る。 「そうよ!ビザは!?どうやって入国したの?」 「いや何かこう…知り合いの伝手(つて)で。そんな事よりこれから何処行くんだよ」 「…バグダッドまで出ればショッピングモールがあるけど」 そうこうしている間に車中の気温が落ち着く。 本郷に続いて助手席に乗り込むと、パトリシアはダッシュボードの軍手を投げて寄越した。 「面倒臭いから近場で済ませましょ、取り敢えず直進して」 「分かった。此処の道はいいな、真っ直ぐで」 ただし“ハイウェイ”と呼ばれる市の中心道ですら、日本の田舎道の如くこじんまりとしている。 おまけに好き勝手にスクラップ類が道路へ競り出し、時折擦れ違いにも苦労する程の車間であった。

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