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chapter.2-25

「一見静かに見えるけど、やっぱ突然戦闘が始まったりするのか」 「しょっちゅうよ。特にISILがファルージャを占拠して以降はね」 町並みは見事に単色で、カラフルな建物など見当たらない。 視界にはコンクリート住宅、未完成の建造物やゴミの山、打ち捨てられた廃車など変化の無い画が通り過ぎ、麻痺しそうなほど退屈な観光だった。 「反対側の橋を渡ったらファルージャがあるけど、其処は絶対近づいたらダメ。ISILの非道さは目に余るから、多分死ぬわ」 「…どうしてこんな危険な場所に本社を?」 車に盗聴器は仕掛けられているだろうか。 そもそも、この少女自体がどの程度あの会社に関わっているのか不明だ。 「まあ…色々あるの。私は生まれもこの国だけどね」 正直、パトリシアの出自も気になる所だった。 然れど本郷が会話を繋ぐ手前、相手が車を停めるよう促す。 「着いたわ、この路地の奥だけど…成るべく人に見られないように行きましょ」 先の会社案内によれば、矢張り社員も迂闊に出歩けない為か、本社地下にはある程度の施設が揃っていた。 ただし食堂はあれど、ショップはない。最低限の日用品はこうして街に買いに出ねばならないらしい。 2人は人気の無い道を辿り、一見唯の住居にしか見えないドアを開けた。 次に突然現れた階段を上れば、嫌にごちゃごちゃした部屋と若い男が出迎える。 「――…いらっしゃいパトリシア!」 「久しぶりね、元気にしてた?」 アラビア語は挨拶程度を習ったものの、話せる訳もない。 大人しく少女の買い物を見守っていると、矢張り店員の彼は本郷を見て妙な面をした。 「…東洋人か?何故?」 「うちの新しい社員なの、優しくしてよね」 「まあ、そうはしたいけど…」 日本人なんて、好き好んで来るのはジャーナリストくらいのものか。 明後日を見て佇む内、いつの間にか紙袋を抱えたパトリシアが覗き込んでいた。

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