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chapter.3-4
「…仕方ねえなsugar、可愛いお前の甘えに免じて話してやろう。どうせ米軍のゴシップなんざタブロイド紙に入りきらねえ程あるからな」
その決して同情でない、何処か子供を見る諦めにも似た目。
一見柔らかい男の相好へ、どうしてカレンは仄かな恐怖を感じているのだろう。
「昔お宅の本社の近くに出張してた頃、イラク治安部隊の訓練も担ってた。ところが気を許した矢先、寝返った連中に部下を皆殺しにされてな」
淡々と告げる、訛りでもない独特なリズム。
その惨い内容を誇張するでもなく、なのに寒気を呼び起こす。
「小隊の29人が犬死にした。俺の誤判だ。おまけに急襲に叩かれた挙句、5人をその場へ置き去りに撤退…そういう話だ」
カレンは知っている。
壊滅した元イラク軍らは米軍へ職をせびったが、その大半が信頼に足らなかった事を。
その後治安部隊として彼らを育成しようとしたが、現地武装勢力へ寝返って逃げ出す輩も多かった事を。
「…でも私は貴方の名前を聞いたことがあるわ寝屋川大尉、日本人ながら海軍十字章にノミネートされた英雄…」
「なあお嬢さん、安い慰めでお前の価値を下げるなよ。もう話は終わったろ、そのお節介は内に秘めときな」
何時の間にやら、するりとカレンの手は剥がされ行き場を失う。
相手は早々と硬い檻から背を離し、既にその場を去ろうとしていた。
「待ってよ、貴方は感じない?私と気が合うって」
「ああ、檻がなきゃ口説いてたろうよ」
その単調な言いようでは真意が読めない。
結局あしらわれた心地のカレンが睨めば、英雄は手本の様に口だけで弧を描いてみせた。
「お互い来世に期待しよう」
最後まで視線は途切れぬまま、廊下へ続くシャッターが隔てる。
再び閉ざされた檻の中、カレンは孤独の代わりに妙な鬱憤を抱え、退屈な空間へと身を投げ出していた。
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