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Chapter.3-5

結局のところ、来世だの前世だの、確かめも出来ない概念を考えるから難しいのだ。 正義だの悪だの、主観的で脆いレッテルをつけるから拗れるのだ。 そしてそれを他人と共有しようとするから。 在りもしない共通の答えを見つけようとするから、勝者無き戦争へ嵌るのだ。 「お疲れ様です、Sir」 独房から数歩進んだところで声がした。 寝屋川が先を見やれば、やけに神妙な面の部下が道を塞いでいる。 「どうしたウッド」 「失礼ながら私は聞いておりました、先程の発言を撤回して下さい」 普段はまず使わないであろう、無遠慮な物言い。 序に声色から顔つきから何から何まで、この部下は怒っているのだ。 「あれが“貴方の誤判だ”との一文を撤回して下さい」 「軍法会議からやり直せってか?」 「…貴方は!一体いつになったら…ご自分を許すのか!!」 窓ガラスが震える程の怒声が降る。 戦慄く巨躯を前に、寝屋川はひとり平静な面で待っていた。 「貴方はずっとあの件ばかりだ、何年経とうが此処には居ない!一体いつになったら帰ってくる…いつになったら不可能な過去を認め、諦めて…」 言い募ってはっとした。 飛び出したのは明らかに出過ぎた叱責で、死んだ同僚を過去と言い捨てる、余りに独善的な。 「それが今まで言いたかった件か?」 処罰を覚悟していた。 だが其処でウッドは、この上官がそんな相手でないのを思い出した。 「いつも睨んでたな、何か言いたそうに。俺がこんなでなきゃあ、5年前には聞いてやれたのにな」 「、自…分は」 貴方を否定する気など毛頭ない。 此処に来たのも勝手なら、世話をしたのも勝手。 なのに何時までもこの上官の一番にあり続ける過去へ、一方的な嫉妬を抱いていたのだ。

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