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Chapter.3-6

「フフ…ふふふ」 場にそぐわぬ笑声へ眉を寄せる。 結局上官は窘めもせず、耐え切れないとばかりに肩を揺らしていた。 「まるでご執心の女みてえな台詞だなハリー、生憎俺はその気がねえからなあ」 「…お言葉を返すようですが、サーも随分女々しくていらっしゃいますよ」 「全くだ」 実のところ、寝屋川は良く笑うのだ。 未だ蟠りを抱えたウッドの手前、口角を吊り上げた上官はお天道を見やる。 「――さて、お前の進言を採択しよう先任軍曹。俺がイラクに踏み入れるのは次が最後、何が見つかろうが見つからまいが捜索は打ち切りだ」 現地PMCへの助言だけでなかった。 寝屋川は数年に一度戦地へ戻っては、あるかも分からぬ部下の遺体を捜し回っていた。 だがもうそれも終いだと言う。 自ら苦言を呈しておきながら複雑な気分は拭えず、ウッドはM4を携える背中を大人しく見送った。 「夏季休暇が空くなら、またヒッカム空軍基地でも行くか。どうせロゼも実家に帰れてねえんだろう」 「良い計画ですが…もう無謀なスカイダイビングは御免ですよ」 三度笑う寝屋川の姿が遠のく。 その影が吸い込まれるのを見届けるや、ウッドは腹の奥底に潜めていた憤懣を吐き出していた。 「…サー…あれは自分の見間違いで宜しいのですね」 先日目にした光景が蘇り、激しい頭痛に自らの額を押さえる。 「あの忌まわしい物は…貴方がすべて始末なさったのですよね…?」 ウッドはまた見つけていた。上官の腕に散在する、あの独特な鬱血痕を。 数年前、彼を底なしの地獄へ引き摺り込み、血反吐を吐かせた悪魔の噛み痕の如き、あの。

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