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Chapter.3-8

「あの…パトリシアちゃんに」 「え?何?子猫ちゃんなの…?」 何故だろう。途端に女性陣のボルテージが下落する。 肩透かしを喰らった面の本郷を置き、猛獣らはやれやれと顔を見合わせていた。 「あの子なら別に良いわよ、何かセフィロス様にお熱だし」 「そうなの?セフィロス様取られちゃうとか言わないの?」 「言わなーい、あんなの多めに見て25点じゃん」 低い。端数繰り上げようが、本郷の評点より露骨に低い。 そろそろ女性不信が加速しそうになる頃、ふと景色の端へ明るい茶髪がちらついた。 「あ、パトリシア!」 「えーやだちょっと、もう行っちゃうのねえ!」 絡みつく猛獣らの爪を往なし、どうにか包囲網を抜け出す。 そのまま階段へ消える少女を呼び止めれば、何故か憮然と眉を寄せていた。 「…何か用?」 「いや木曜か金曜暇かなと思って」 「何で私?好きな女はべらしてりゃ良いじゃん」 漸く後ろへ追いつき、倣って安い鉄筋の階段を下る。 風を切る背中は取り合おうともせず、やけに危なっかしい足取りが目に付いた。 「大体さあ、私だって暇じゃないの。今だって会議に呼ばれてんのよ」 「…お前さ」 視線にはたとパトリシアの脚が止まる。 「ヒールで歩くの下手だな」 「放っといてよ!」 言われずとも分かっている。 態々口に出された腹立たしさに、少女は憤慨して去ろうとした。 「待て待て、膝曲げんな。あと踵から付くから歩き辛いんだ、いいか」 何する気だ。と聞く間も無かった。 背後より肩を支えられ、軽く悲鳴を上げた少女の背筋が伸びる。 「そうだよ、そのまま真っ直ぐ立ってろ」 よもやウォーキングのコンサルでも始める気か。 微塵もいやらしさの無い手つきに黙れば、本当に指南が飛んでくるではないか。 「歩幅狭くして、足裏全体で着地しろ。直線を歩くイメージで…」 「ちょっと、何でそんな詳しいのよ」 「昔結婚式の…何でもない、こっち見んな。前だ前、視線は正面」

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