68 / 248
Chapter.3-8
「あの…パトリシアちゃんに」
「え?何?子猫ちゃんなの…?」
何故だろう。途端に女性陣のボルテージが下落する。
肩透かしを喰らった面の本郷を置き、猛獣らはやれやれと顔を見合わせていた。
「あの子なら別に良いわよ、何かセフィロス様にお熱だし」
「そうなの?セフィロス様取られちゃうとか言わないの?」
「言わなーい、あんなの多めに見て25点じゃん」
低い。端数繰り上げようが、本郷の評点より露骨に低い。
そろそろ女性不信が加速しそうになる頃、ふと景色の端へ明るい茶髪がちらついた。
「あ、パトリシア!」
「えーやだちょっと、もう行っちゃうのねえ!」
絡みつく猛獣らの爪を往なし、どうにか包囲網を抜け出す。
そのまま階段へ消える少女を呼び止めれば、何故か憮然と眉を寄せていた。
「…何か用?」
「いや木曜か金曜暇かなと思って」
「何で私?好きな女はべらしてりゃ良いじゃん」
漸く後ろへ追いつき、倣って安い鉄筋の階段を下る。
風を切る背中は取り合おうともせず、やけに危なっかしい足取りが目に付いた。
「大体さあ、私だって暇じゃないの。今だって会議に呼ばれてんのよ」
「…お前さ」
視線にはたとパトリシアの脚が止まる。
「ヒールで歩くの下手だな」
「放っといてよ!」
言われずとも分かっている。
態々口に出された腹立たしさに、少女は憤慨して去ろうとした。
「待て待て、膝曲げんな。あと踵から付くから歩き辛いんだ、いいか」
何する気だ。と聞く間も無かった。
背後より肩を支えられ、軽く悲鳴を上げた少女の背筋が伸びる。
「そうだよ、そのまま真っ直ぐ立ってろ」
よもやウォーキングのコンサルでも始める気か。
微塵もいやらしさの無い手つきに黙れば、本当に指南が飛んでくるではないか。
「歩幅狭くして、足裏全体で着地しろ。直線を歩くイメージで…」
「ちょっと、何でそんな詳しいのよ」
「昔結婚式の…何でもない、こっち見んな。前だ前、視線は正面」
ともだちにシェアしよう!