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chapter.3-9
東洋人とは、もっと余所余所しいイメージだった。
それが線引きも無く、恰も知人の如く踏み込んでくる。
おまけに態々安寧の国から渡来し、容貌も含めすべてに富んだ妙な男。
自然、本郷の対応に迷う少女は、助けに伸ばされた腕を突き飛ばしていた。
「…っもう良いわよ、木曜空ければ満足でしょ!」
「ん、有り難う」
妥協を投げれば、するりと離れる。
不服を前面に出すパトリシアを前に、本郷は突飛な所感を寄越していた。
「良かった、内面は全然似てなくて」
「…え?何が?」
「何でもない、また木曜な」
主語も修飾語も分からない。
放心する少女を残したまま、結局軽い挨拶のみでその場を後にする。
(兄貴だけ魔界種族と交配してつくったのか)
どうやったらあの聖人君子の父親から、磁界の捩れみたいな息子が生まれてくるのか。
首を傾げながら階段を降り、本郷は案内されていない地下2階へ踏み入れる。
「…借りまーす」
どさくさに紛れて抜いたパトリシアのIDを翳せば、案の定シャッターは容易に口を開けた。
何やら幹部は会議を催している現状、このフロアに人気は無い。
おまけに警備システムが作動してない故、営業時間の方が探りやすいのだ。
(電子化されてない資料なら漁れるか、PCは流石に…)
視線を彷徨わせていた先、ふと「資料室」の表記へかち合う。
これはいきなり当たりだろうか。
施錠もない形だけの扉を開ければ、暗い室内には無造作にファイルが積み上げられていた。
「見積と…納品書、請求書」
手当たり次第に捲ろうが、内容は商品の羅列と金額、すべて似たり寄ったりだ。
ただ撮影すべく携帯を構えた矢先、不意にその金額へ吸い込まれていた。
(コピー用紙50枚入りが$20…?何でそんなクソ高いんだ、コート紙でもあるまいし)
そもそも50枚束の販売など見た事がない。
ランクまで存在するらしく、価格もピンキリでおまけに。
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