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chapter.3-11
「自ら前線に出て来る。存在を知らしめたなら、いい種蒔きという訳だ」
「…それはそうとして、神崎が捕まらなければどうするんです」
部下はもう一つ、計画していた火種の方へ言及する。
息子の死体を使って信者をけしかける予定だったが、当人の行方は未だ掴めずじまいだ。
「どうするも何も、駄目なら妹の方が居るだろう」
当然だ、と素気無い言葉へ息を呑む。
仮にもセフィロスを慕い、組織を家族の様に思う少女に対して。
「――セフィロス様、失礼します」
其処でアルトが流れを切った。
話材にしていた少女の出現に、室内が一挙に息を止めた。
「あ、すみません…作業が早く片付いたので」
扉を開け、膠着した現場へ躊躇する。
その曇りない目へ対応を迷いつつも、咳払いをしたセフィロスは入室を促した。
「…そういうことだ、君たち。今後納品が忙しくなるだろうから、気を引き締めていこう」
当たり障りのない、今後の見通しや目達周知。
パトリシアは居心地悪く部屋の隅へ佇み、何もないタイル張りの床を眺める。
(立ちっぱなし)
蚊帳の外で進む会議。誰も見ない足元。
無用なヒールが蔑むように、自分の身を締め付けている。
「パトリシア」
敬愛する相手に名前を呼ばれてることすら、気付くのが遅れた。
はっと上げた視界には、いつもの微笑みを乗せたセフィロスが相対していた。
「君は今日、市長へ挨拶に向かってくれるかな」
「…市長へ?」
「ああ、君を表彰したいんだそうだ」
表彰とは一体何の事だろう。
直ぐさま父親の顔を想起するが、その輪郭ですら覚束なかった。
(私、良く知らないし)
セフィロスを目前にしても、足の痛みにすべて取られる。
(大体、何もしてない)
遠い彼の言葉や視線が、妙に自分を苛立たせる。
頭の奥では、早く木曜日になればいいのに、何故かそんな考えだけが浮いていた。
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