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chapter.3-15
『―Authenticate!―』
「“認証”…?」
固唾を飲む萱島の目前、テキストエディタへまた一行が追加される。
『Please come in one by one.(1人ずつ入場して下さい)』
この狭い小屋の中、一体何処へ入れと言うのか。
思わず周囲を見渡す2人の背後、俄かにガチャンと大きな音がした。
「――!!!」
「…こんな所で抱き着くな沙南」
そんな小言を聞き入れる余裕はない。
心臓が喧しいまま音源を振り返れば、先は無かった二枚戸が忽然と現れている。
「ひ…ひぃぃ」
「壁が一部シャッターになっていたのか。しかし建物の構造上、そんなに奥行きは…」
扉を調べようと歩を詰めた時だった。
ひとりでに二枚戸の口が割れ、クローゼット規模の内部が露出する。
萱島は益々身を竦めたが、どうやら昇降機らしかった。
なるほど、件のテーマパークは地下にあるという訳か。
「…俺が入る。お前は此処で待機して、何かあれば車で帰れ」
「えっ、いや…でも」
「携帯は圏外だからこれを渡しておく」
押し付けられたのは小型無線機だ。
用意が良いのは感心するも、ひとり帰れという指示がまったく気に入らない。
「返事は!」
「…いや帰らないよ!」
「聞き分けの悪い…!」
「どっちが…あっ」
口論の渦中に関わらず、目前で戸和の乗った昇降機の扉が閉まる。
慌てて駆け寄るも、留める前に無情にモーター音は下へと遠のいていった。
「あ、ああ~…」
そんな勝手に置いて行かれてどうしろと言うのか。
大体無線だって、距離が離れれば聞こえやしない。
「この部屋は何も無さそうだし…」
PCを弄れど、認証ソフト以外の画面は起動しない。
そう言えば他の客も居るならば、此処で鉢合わせするかもしれない。
(でもチェックイン時間ギリギリに来たしな…もう自分たちが最後だったのかも)
どうにか頭が冷め始めた。萱島はポケットを探り、再び件の招待メールを開いていた。
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