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chapter.3-17

封鎖が退き、全貌が露わになった。 広がるテーマパークそのものの景色へ、萱島は拍子抜けしたように佇んだ。 遊具の稼働こそ止まっているが、見目は至って普通のレジャー施設だ。 ただし太陽の姿はない。 日没後のような明度で、薄闇が天井からすべてを飲み込んでいる。 『ガッ――ピーーー――…13時になりました。今日はみんなフィッピーに会いにきてくれてありがとう』 萱島の思考する間を場内アナウンスが奪う。 あからさまに合成された機械音が唸り、気味の悪さへ総毛立った。 『ゆーきあるちょうせんしゃへ、たったひとりさいたんのちをめざそう』 生物でない、抑揚の失せたひらがな。 謎のことばを吐き出すスピーカーへ、萱島は筋一本動かせず佇む。 『ひつようなときはひとつ、ときのあかしはぜんぶ、いまからはじまるよ』 辺りをけたたましいブザーが劈いた。 一体、何が始まると言うのか。 先の意図も分からない、目的も分からない。 人気の無い園内で、萱島は縋るように無線機を手繰っていた。 「――和泉…あの」 案の定、相手は経緯を話すや怒り出したが。 数秒後にはタイムロスを避け、此方に当面の解決策をくれていた。 『――…くそっ、来たものは仕方ない…ゲートから右に行けばログハウスがあるだろ、其処に隠れて俺が言うまで出てくるな』 「えっ、そっちに合流できないの…?」 命令に、当然の疑問を返した。 何だか雨でも降りそうな暗がりの中、戸和の声が低くなる。 『パンフレットを読め』 「…忘れてました」 『まったく面倒な所に来た、どうやらチケットがゲーム参加券だったらしい。ともかくお前は身を隠せ、其処でパンフレットを読んだらまた連絡しろ』 珍しい早口が終わり、また不気味な静寂が戻る。 勝手についてきた自覚がある以上、萱島は大人しく指示に従いログハウスを捜し始めた。

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