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chapter.3-20
“Another Player”
(誰か来た…!)
窓の脇へ転がり、曇りガラスから周囲を見回す。
しかし何ら気配は探れない。おまけにこの警告が、何メートル圏内を捉えているかも分からない。
30秒以内に離れないと不味いのは向こうも同じだ。
次の進退を迷い、全身の血流が喧しくなる。
(そうか…相手の方角は表示されてるんだ)
時計を覗き込めば、文字盤の内周へ矢印が点滅している。
つまり互いの所在地はばれ、この状況でサタデーナイトになれば戦闘へ縺れ込む筈だ。
(…寧ろ彼がコマンダーで、わざと非戦闘時に歩き回っている可能性も)
この警告を利用し、周囲のプレーヤーを探知する。そして直ぐさまサタデーナイトへ切り替え、急襲する作戦かもしれない。
どうする、一端この小屋を出るべきか。
退路を確認して立ち上がるも、次にはスピーカーからサイレンが喚き始めていた。
弾かれた様に時計を見れば、矢張り先の警告が止まっている。
敵の位置表示も消え、ディスプレイは緑色に変色している。
――“Saturday Night”
よもや接近していたのはコマンダーだったのか?
動揺しつつも後退した刹那、先まで頭上にあった窓ガラスが砕け散っていた。
(撃ってきた)
元よりその気なら、躊躇している間はない。
確かに平和交渉したところで時計が外れないのでは、端から切断した方が早いわけだ。
「――…おい、小屋に誰か居るんだろう!」
ところが遮蔽物を確保する頃になり、今度は弾の代わりに声が飛んできた。
「撃って悪かった!もう何もしないから出てきてくれ…どうも俺はこのイベント、勝手が分からなくて」
どもり、裏返るその声が演技かどうか。
生憎図る術はないが、萱島とてごまんと聞きたい件があった。
裏口の戸をゆっくりと押し開くや、建物へ沿って回り込む。
やがてログハウスの正面へ見えたのは、革ジャケットを纏う猟師風の男だった。
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