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chapter.3-22
(は、はやっ)
風圧に髪の毛が数本持っていかれた。
慌てて林中へ逃げ込みながら、敵の獲物を非難する。
(あれポンプ式じゃないの!?セミオートでも撃てんのかい!)
相変わらず形の長い銃はよく分からない。
否、自分の手持ちですら理解は薄いけれども。
「――…おい林の方へ逃げた!ガキ一人だ囲い込むぞ!」
しまった。背後の男は何か、明らかに援軍へ無線を飛ばしているではないか。
恐らく、“勝手が分からない”なんてのも与太話で、端から狩りの対象を捜していたに違いない。
「お嬢ちゃん悪いな!実はアンタらの無線も盗聴してたんだ」
追走する男が叫ぶ。嬉々とした声と裏腹、萱島の目が凍る。
「アンタを人質によ、連れとやらも呼び出して…」
「和泉?」
前触れなくブレーキを掛けた。
萱島の行動へ焦り、気を取られた男がつんのめった。
「和泉に何かするの?何?」
「ああ?…銃は弾しか出ねえだろ」
「弾?撃つ?」
やけに寒いじゃないか。
世間知らずな顔をしていた子供が、ジャケットから銃を引き抜くその絵面。
「やってみろよ」
目の温度が失せた。
迷いも怯みもない、身一つが一足飛びに迫る。
速い。
咄嗟に両腕で受けようとするも、真下から見えない蹴りが炸裂する。
そして重い。痛みと火花に視界が白む、よろめいた隙間には、近距離から実弾が撃ち込まれていた。
「ぐっ…うぅ…!」
寸でで急所を避けた。
今度は死の恐怖を感じた男が、木の裏へ逃げ延びた。
「やってみろって言ってんだ」
敗走は許さない。即断で回り込み、萱島は2丁から無慈悲に掃射する。
枝葉は木端微塵で吹き飛び、果ては茂みの裏で何かが転がった。
『――おい、どうすんだよ!?』
寂しい一帯、ザーザー荒い無線の雑音が被さった。
残念ながら応答する筈の者は消えた。
優しい風が流れる林中、萱島は放り出された無線を代わりに拾い上げていた。
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