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chapter.3-25
「“必要な時は一つ、時の証は全部”」
それは入園後間もないアナウンス。
一言一句違わず繰り返した青年に、背中を冷たいものが滑った。
「…つまりな姉ちゃん、時計(時の証)は全部要るが、動く時計は一つしか要らない。結局何が言いたいかって」
“自分以外のプレーヤーは、全員殺害しなければならない。”
アナウンスの意図を知り、閉口する目前。
冷めた2人は読めない面で佇み、変わらず静かに最善を伺っている。
この連中は、不味い
人数的有利にも関わらず、まるで騒ぐ様子もない。
獲物を前に自分を殺す、完全なるプロだ。
(脚を動かせ)
「アンタに借りはないが、俺達も仕事でな」
久方振りの緊張感に慄きつつ、自分をどうにか叱咤する。
「そういう話だ」
右の男が消えた。
自分とした事が、この場で注意散漫になっていた。
(近接で行くしかない)
ターゲットを目前の青年に定め、武器を抜く間もなく飛び掛かる。
彼と揉み合いになれば、きっと誤射を恐れ援護を躊躇する。
「…容赦ねえな」
それはお互い様だ。
案の定初手は直ぐに対応され、振り下ろした脚を弾かれた。
体幹がぐらりと傾き、思わず背後に飛んで立て直す。
投げ技にも似た動き、呼吸を読んで掴みに伸ばされた手。
咄嗟に不味いと避けようが、次にはふわりと腰から宙へ浮く。
投げられた。
そして未だ体を離さない。
柔道の動きじゃない
ルールもクソもない、このまま“頭から地面へ叩き付ける動き”だ。
「おっと」
必死に相手の顎へ掌底を見舞った。
躱した身へ蹴りを入れ、どうにか技から抜けて距離を取る。
(差が有り過ぎる)
離れた途端、容赦なくもう一人の弾が飛ぶ。
かつてない窮地に青ざめるも、何やら目前の敵も突如血相を変えていた。
「――…上だコーレニカ!」
初めてアサルトライフルを構えた先、木の上から何かが突っ込んだ。
この場へ第三者が割り入り、コーレニカと呼ばれた彼へ飛び掛かったのだ。
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