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chapter.3-26
(和泉…!)
ナイフで切り掛かる姿を認め、一切が吸い寄せられる。
此方を案じ、結果急いて来たのだろう。
自由を奪われた敵は木枝から落下し、地面へ重力を乗せて突っ込む。
形勢逆転。
舌打ちしたもう一人が駆け出すも、既に仲間は身動ぎも出来ず拘束されていた。
「動くな」
“コーレニカ”に刃先を押し当て、戸和が静止を命じた。
流石は元特殊工作員。しかしこの怜悧な敵、仲間が捕まったからとあっさり屈するだろうか。
「武器を此方に投げて手を上げろ」
暫し睨み合うも、敵は早々と折れて銃を手放す。
意外だった。彼の器量なら、多対一でも逃走くらいは可能だろうに。
「おい沙南、お前もこっちだ」
「あ、はい」
「何が人と会うだ、相変わらず言いつけも守れず勝手しやがって」
それは事前、色々あって成り行きと言うか。
言い訳を飲み込み、この後の説教に怯えて百面相する。萱島の挙動を目に、敵の青年は軽く吹き出していた。
「やい彼氏、コーレニカを離してくれ」
「軍人か?何の用でこんな所へ来た」
「民間軍事会社だよ。要は雇われだ、巻き込まれたんだぜ」
経緯はそうだろうが、現状銃を撃ってくるなら応戦する他ない。
戸和とて穏便にすませたいものの、やはり相手の時計は必要になる。
「雇われ?…ならその雇用主とやらは何処だ」
「えーっとですね、それは私がその」
「お前の彼女が殺しちまったんだとよ。勘弁しろよ、PMC改めNPO かよ」
「すいません…その、じゃあお互いにメリットのある道をこう」
「おう。そうだな、兎に角」
くいっと器用に口端だけ持ち上げる。
その表情、まるでどこかの調査隊長じゃないか、なんて気を取られた矢先。
「俺の連れ を離してくれ」
彼が何かを振り被って投擲した。
それが密かにピンを抜いた手榴弾だと気づく手前、萱島は隣から勢い良く襟首を引っ手繰られていた。
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