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chapter.3-28
臆病を飲み込み、萱島は意を決して飛び出した。
暗がりでいやに白浮きしたタイルの上、距離は50Mといったところだ。
(…?)
間髪入れぬ攻撃を覚悟していたが。
半分を過ぎようが、一つも弾が降ってこない。
気付いてないのか罠なのか。
額へ汗を浮かせながらも入り口は目前で、背水の陣で突っ込んだ。
内部は螺旋階段が貫いていた。
ざっと見積もって5フロア程度。待ち伏せだろうが他に術はなく、萱島は愛銃を手に正面から駆け上がる。
気付いているなら、上から照準を定めているのか。
この場で“サタデーナイト”を解除しないのは、誘って仕留めるつもりなのか。
(一体、どんな奴が)
上がる呼吸に伴い、心音は喧しく意識を蝕む。
未だ攻撃は来ない。
遂に螺旋を上り切った萱島は、どうにか転がるように壁面へ身を隠す。
誰かが居た。
最上階の高見台には、確かに人の気配があった。
こんな距離、確実、気付いてるに決まってる。
喘鳴しそうな喉を押さえ、滑る指で拳銃を捕まえる。
「――こんな山奥まで遊びにきたのか?」
しんと、静かな現場へ自分のでない声がした。
全身を竦ませたていた先、その言い草へ思わず身体ごと振り向く。
「遊園地だからって楽しいもんないぞ、メリーゴーランドも回らんし」
優しい声音、妙に気の抜ける口調。
唖然とその場で立ち上がり、萱島は警戒も忘れて踏み出す。
「あ…お前、保護者はどうした?子どもだけじゃ入場出来ないんだぞ」
明かりの無い高見台。
現れたコマンダーの正体へ、カタカタと恐怖でなく総身が揺れる。
此処までどれだけ捜そうが居なかったのに、
そうしていつも、どこ吹く風の如く現れ、此方の心配など知る由もなく立っている。
「……しゃちょう」
投げつけた拳銃を喰らった。
神崎が文句を言う間もなく、萱島は駆け出し探し求めた身へ飛びついていた。
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