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chapter.3-32
「やべえご到着だ、じゃあな」
青年の背後では、もうコーレニカが豆粒みたいになっている。
反比例して効果音は喧しくなり、広場ではヘリが着陸態勢に入っていた。
「おい、それだけ言いに来たのか?」
呆れた戸和が声を張れば、既に駆け出していた相手が何かを放る。
咄嗟に反応して捕まえれば、手中にあったのは隠せる程度のコイン型ナイフだった。
(何に使うんだこれ)
訳は分からんがお節介な男だ。
一先ず頂戴してその場を去るも、既に着陸したヘリからは武装集団が零れ、一帯はもう異様な警戒地区へ様変わりしている。
さあ、もう脱出の機は逃した。
ゲームの終了したこれ以降、道楽施設の連中は我々駒をどうするつもりやら。
『――和泉!今どこ?』
走る道中、無線からノイズと呼び声が遮った。
応答しつつ姿を捜せば、潜めた声が誘導を寄越した。
『噴水前の植え込みきて』
素早く回り込めば、確かにレッドロビンの垣根に萱島の姿がある。
周囲を警戒しつつ駆け寄り、戸和は思わず小さな肩を引っ捕まえ凄んでいた。
「何処に居るだと?こっちの台詞を…!」
「え、えへぇ、ですからその」
「やめろよお前ら、痴話喧嘩なら帰ってからやれよ」
何故この場で第三者の声がする。
事情を知らぬ青年は視線を巡らし、苦笑する萱島の背後を睨み、其処で漸く同伴者の存在を捉えた。
「…神崎社長?」
「まあ俺だけど」
「びっくりだよね…!コマンダーが社長で、あと時計外して怒られたのも社長で」
「…此処で何してるんですか?」
「え?息してる」
感動の再会などある訳もない。
あっと萱島が声を上げる手前、青年は相手の横っ面を張り倒し、今日まで無体を強いた男の胸倉を掴み上げていた。
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