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chapter.4-6
「お、落ち着け御坂…!」
一方で雨を背後に震える。
顧問は小市民然として、みすぼらしく怯え切っていた。
「彼を殺しても何も解決しない!」
その草食動物のように、懇願する真っ黒い目は。
果たして同族意識だろうか。いや、単なる保身の一環に過ぎないのか。
生物、誰しも生に縋るのは真っ当な反応だ。
膠着した場に見切りをつけ、御坂はさっさと目的の子機を手繰っていた。
「おい…何処にかけるつもりだ?」
この場で無線でなく、電話機とは外部へSOSを出すつもりか。
長い呼出音に否応なく動機が早まる。
そして顧問の想定を裏切り、子機はなんと“件のフロア”へと内線を繋げていた。
「どうした7階、何があった?」
御坂の第一声へ内臓が飛び出しかけた。
渦中へ電話を掛けたということは、もしや応答するのは。
「監視カメラが動作しない、今どういう状況…」
『貴方、職員か?』
発音の悪い奇妙な英語。
それでいて語調の強い問いは、7階へ乗り込んだ襲撃犯のものだった。
『未だ何も把握してない?何故ここに直接電話する?馬鹿か?』
「…誰だ君は」
『我々はISIL。此処に来たのは目的がある、御坂康祐の引き渡しを希望する』
矢張りISIL(過激派組織)か。
端から敵味方問わぬ犠牲を見込んだ、なんと無茶な特攻か。
御坂は逡巡し、何も知らない体で口を割る。
「御坂は私だ」
『貴方?――彼は世界一頭の良い人間、貴方は愚か過ぎる。信じ難い』
「本人で間違いない。用件は私の引き渡しだけか」
『正しいならそれ一つで結構。貴方、御坂康祐ならば今直ぐ此処へ来い。これ以上職員に危害ない』
「直ぐには無理だ」
御坂の否定へ、淀みなく続いていたキャッチボールが途切れた。
雲行きが怪しくなり、うずくまる事務局長が縋るような目を向ける。
「…20分ほどかかる」
『何故?我々は人質をとっている。馬鹿か?何故20分も遅れる?』
「職員の…避難誘導が済んでいない、それから万が一に備えて掃除したいデータがある」
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