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chapter.4-7
どうして引き延ばす必要がある。
黙って考え込んでいた襲撃犯は、相手の思惑に勘付いたらしい。
先よりも剣を増し、噛み付くような勢いで電話口に吠えてきた。
『――御坂、逃げる気か!?その20分で逃げる気か!…見損なった、我々は貴方を小さくなく、尊敬していた…!』
「そうじゃない、落ち着け」
『部下を見捨てるのはゴミだ!!お前はゴミだ御坂!!我々は許さない、お前を逃がさない…!』
「逃がさない?どうする気だ」
『お前は9階だ…電話を掛けてミスした、内線番号が示している…逃げられない!』
受話器を投げつけるように回線を切った。
間近に居たため、事務局長は一連のやり取りを聞いていた。
唇が戦慄く。此処に来る、襲撃犯は此処に来る。
何故なら。
「貴様…連中をわざと呼び寄せたな!」
下手な振りまで演じて、態々此処の階数を晒して。
おまけに先立ち、防火シャッターで最短ルートをつくっていた筈だ。
我々はどうなる。
間もなく迫る危険を前に、事務局長は憤る気力も失せていた。
「わ、私は…死にたくない…!」
「怯えなくていい、ひとつ方法がある」
どうしたその猫撫で声は。
何処から出したのかも分からないが、死霊に撫でられたように肝が冷える。
悪寒で声も出ない、事務局長は次の間には再び床へ叩き付けられていた。
「私に忠誠を誓え、エイベル・スウィングラー」
身体へ乗り上げ、御坂の作り物のような顔が凄み、迫る。
そうなれば喉元に鎌を掛けられた心地で、男は泣きじゃくることも敵わなかった。
「死ぬまで服従しろ。うちから横領した予算も戻し、不要な来客もすべて処分しろ。心配しなくとも優しくしてやる、お前にはそれなりの伝手がある」
筋は動かないのに、頷かなければならない。
ただ力を振り絞るまでに、見えない糸が首を引っ張っていた。
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