103 / 248

Chapter.4-9

光景としては、7階(現場)の方がよほどマシだった。 少なくとも中身が飛び出した生物など居らず、損害は8割型デスクやデータサーバーが受け止めていた。 (ただ、マシというだけだ) 勿論ヘリが突っ込み無傷で済む訳がない。 御坂はトリアージの済んだ重傷者へ近寄り、しゃがみ込んでは検分に入ってしまう。 殺した後は医者に戻るなど、忙しい人間。 サイファは担架の誘導をしつつ、サーベルまで携えた男の背中へケチを付けていた。 「エアウェイで気道を確保しました」 「輸液を始めていい、そっちはアドレナリン投与…彼は」 「動脈が切れて出血が止まりません」 フロアに横たわる3人目は、体温低下に震えながら見る見る青に染まってゆく。 「リンゲル液、それと鉗子…」 言いかけた御坂の語尾が消えた。 常駐看護士らの手も止まる。 2、3、体を調べて珍しい間をつくった。上司は逡巡し、「プロポフォール」と異なる指示を被せていた。 「…サー」 もう、空気のような声だ。 周囲まで息の詰まる心地で、怪我人を注視している。 「寒い、寒いとても」 若い青年だった。それが間際の年寄のような声で、必死に現れた希望へ縋り付いていた。 「目を閉じな、手を握ってあげるからおやすみ」 「眠る…?せっかく…た、グフッ」 血が詰まり、軌道が怪しくなってきた。 既に左腕は縛られ、看護士が注射器を差し込んでいる。 「ゴボッ…グ、起きても…サーは居ま、が」 「居るよ、ずっと」 綿あめのような声を耳に、体温を手に。鎮静剤の助けを受け、数十秒で瞼が落ちる。 そうして秒針が帰るころには、すうと一切の苦痛が溶けて解放されてゆく。 「…有難う御座いますサー」 看護士が零した感謝に終わり、一帯の空気は穏やかに動き出す。 無残で、度し難く、遣る瀬無い。 繰り返さる酷い現実、だがそれを傍観するサイファは、もっと別な感情を抱いていた。

ともだちにシェアしよう!