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chapter.4-10

(なんと羨ましい人間か) 真顔で死に逝く若者にそんな言葉を投げる、自分の異常性も認識はしている。 (我が城主に手を握られ、最期を看取って貰えるなど) きっと自分だけでない。部下の誰もが幸甚に思う。 (何故なら貴方の記憶では、いつも死んだ人間が勝っている) 誰とは言わないが、灰色の目をしたあの天才医師だとか。 今の名も知らない職員でさえ、この瞬間で、恐らく自分を越え 「サイファ」 嫉妬に苛まれていたら、反応が遅れてしまった。 慌てて姿勢を正すも、サイファは目前の上司を見て顔を引き攣らせた。 「CVN-70を手配しろ」 「…はあ?」 「”Carl Vinson”を呼べ」 単語が分からず聞き返した訳ではない。 怜悧な瞳に反してやけに甘ったるい、(たしな)めるような声を耳に、部下は懸念を確信に変えていた。 「サー、愚見を申しますと少々落ち着」 聞いてない。何も聞かずに去っていくのだから、こうなってはもう手に負えない。 「…マチェーテは居るか!」 『あいよ』 「サーがキレたぞ!」 『またかよ』 たまらずインカムへ叫ぶも、楽観視する同僚の反応は薄かった。 「バカ言え、今回はニミッツ級を御所望だ…三次大戦でも始める気かあの人は!」 勘弁しろよ、と感慨もない同僚の返事を耳に唸る。 釣り竿を投げたのは向こうだが、生憎引っ掛けたのは鯛でない。人間も襲う肉食獣・シャチだ、覚悟しろとサイファは遥か東の敵へ凄んだ。 「――で、取り敢えず名前は?」 「な、名前は萱島沙南です、年は28です、神崎社長の会社で働いてます、ごはんは全部好きです、あ…あと、あと」 「待て!一個ずつだ…いや何?28?」 「小さい子だと思ってたぞ」 さて、先ずは現在地の話から必要になる。 あの後フィッピーランドの管理者に拘束された神崎、萱島、戸和一行は、どうにか五体満足で「海賊の入り江」へと招待されていた。

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