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Chapter.4-12

出航の警笛を耳に、戸和は弾かれたように首を擡げた。 妙な薬品で朧気ながら、現在までの記憶がコマ送りに蘇る。 海賊の入り江への潜入。巨大な倉庫の見学。 道中、俄に拘束され意識が途切れた。 そうして今、この薄暗い倉庫で自分は一人だ。 「…沙南」 呼べど応答は無い。神崎の姿もなく、脳内が嫌な懸念で満ちる。 拘束された腕に舌打ちしたところで、ある代物を思い出した。 お節介なPMCに渡されたコイン型ナイフだ。 靴底から出したそれに頼れば、あっさりと作業用ロープは切れ、体に自由が戻っていた。 (野郎、コーレニカしか言わないから名前が分からなかった) 独房のような倉庫を脱し、急かれるままデッキへ上がる。 違う船に乗っていれば手も足も出ない上、此方には満足な武器もない。 さて戦況は絶望的だ。兎に角次は、あのレーダーマストへ近づかねばならない。 漁船であれば、恐らく付近に操舵室がある筈だ。身を隠しつつ踏み出した矢先、戸和の背中を俄かに影が包んでいた。 「――what are you doing here?(こんなところで何をしている)」 まさか、察知が遅れて後手になるとは。 即座に半身で振り返るも、視界に飛び込んだ男へ戸和は凍り付いた。 何故なら男は余りにも見知った存在で、しかしこの場においては余りにも唐突な。 「ガロン」 忘れる訳もない傷だらけの相貌。 十数年前に別れた育ての親だ、やや年月を積んで目前に立っているのは。 「驚いたぞ、すっかり大きくなって」 「どうして此処に」 「それは俺が言おうとした。この船はお前の故郷へ行き、もう日本には戻らないからな」 中東…つまりはTP本社を目指しているのか。 色々先を考えたいが、生憎この邂逅へ脳がショートしている。 「いや待て、根掘り葉掘り聞く気はない。兎に角今は倉庫に戻れ、連中がお前を撃つ前に」 「…駄目だ、仲間の安否を確認したい」 「分かった俺が目を配っておく、それで問題ないだろう」

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