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chapter.4-19
「昔ジムと釣ったな?腹の足しにもならんかったが」
「風情のないことを言うな」
「お前が一番食ったんじゃないか」
応酬しておきながら、戸和は伺うように隣を見た。
こうして何ら変わらず接してくれる様がむず痒く、ただ確かなものなど無く、不安と安堵が綯交ぜに濃くなる。
「で、話って何だ」
「…日本へ来ないか」
青い煌めきも消え、再びしぶきだけが光る海面。
其処へほんの僅か、船の光源を背に両者の影が映っている。
日本へ、と言ったが何処でも良かった。
中東を捨てて、安全な国に逃げてくれるのであれば。
「日本?何の所縁もないぞ」
「何処だって良いんだ」
「ハハハ!」
そうだこいつは昔から、子供から見て突拍子もなく笑う奴だった。
それをジムと二人で首を傾げていたのを思い出した。
本当に、逐一記憶ばかり蘇る。過去の比重を思い知らされ、あまりに
「お前がそんな欲張りだなんてな!」
そして何てことない揶揄で、心臓を貫く。
変わらぬ男を前に佇み、戸和は返答も分からず凍り付いていた。
「親友、お前を拾った会社、隣に居た恋人、今度は俺。そんなに彼方此方手を伸ばしたって、お前の腕はたかが2本」
欲張りだ、の寸鉄がまったく腑に落ちた。
たった今まで忘れ去っていたこの男と、邂逅 に再会したというだけで何をセンチメンタルになっている。
「今まではそれで良かった、お前はガキで、何も持っちゃ居なかった。しかしいい加減自分の持てる量 は分かったろ」
「…自分をジムに並列するなら、お前も危ない立場なんだろ」
「そうさ?お前を拾った時から死ぬまで、俺は何時だって戦場に居るじゃないか」
可笑しそうに嗤う声に被さる、ざらざらと低いエンジン音が鼓膜を引っ掻く。
男の背後、遥か続く海を見て理解した。
すべて言う通りだ。日本と自分たちの故郷とは、20日以上も離れている。
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